やっと出た“普通のメガネ”っぽいスマートグラス 「Focals」の仕組みとできることITはみ出しコラム

» 2018年10月28日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 10月に入り、スマートフォンが巨大化して持ちにくくなっている問題をカバーする“子機”が国内外で登場しました。懐かしのPDAブランドを冠した「Palm」(日本未発売)や、NTTドコモの「ワンナンバーフォン ON 01」といった小型端末です。また、スマホ巨大化の反動か、機能を削って薄型軽量にした「カードケータイ KY-01L」のような通話端末も出てきています。

 また「Apple Watch」のようなスマートウォッチも、そうした「通知が来る度に、大きなスマホをいちいち取り出すのが面倒」といった問題に答える端末です。そのうちAR(拡張現実)対応のメガネがもっと進化して違和感なく装着できるようになり、安全性も確保できたら、スマホがそれに取って代わられるかもしれません。

 ……といった話を前回のコラムで書いたのですが、そんな電脳メガネの夢に近づいたような製品が出てきました。カナダの新興企業Northが10月23日(現地時間)に発表したスマートグラスの「Focals」です。予約受付中で、12月に数量限定で出荷します。

Forcals 一見普通のメガネのようなスマートグラス「Forcals」(NorthのWebサイトより)

 装着した様子は、いかにもガジェットっぽいスマートグラスではなく、“普通のメガネ”のようです。メガネを支えるパーツの「つる(テンプル)」がちょっとゴツいですが、髪の長い人であれば隠れて見えません。このつるの右側にピコプロジェクターやマイク、スピーカー、プロセッサなどが入ってます。

Forcals 正面からは、普通のメガネっぽく見えます
Forcals 後ろから見ると、つるが太いのがよく分かります

 このプロジェクターから右目レンズに埋め込んだ小さなフォトポリマーフィルムの偏向レンズに光線を当てて目に直接視覚提示を行う仕組み。「Google Glass」と原理は同じですが、Google Glassのようにプリズムを使わないので、より普通のメガネっぽい形にできるのです。

Google Glass こちらは「Google Glass」

 表示できるのはカラーの文字と単純なアイコンだけで、長いニュース記事を読んだり映画を見たりすることはできません。そもそもスマホの子機のような役割の端末ですから、スマホのプッシュ通知やらメッセージの着信やらを前を向いたままチェックできて、返信でき、通話もできればいいのです。

Forcals Forcalsで表示される情報の例

 実際にFocalsを試した米Wiredのローレン・グッド記者によると、映像は「正面にいる人のあごと右肩の間あたりに見える」そうです。会話中でも相手に気付かれずに情報をチェックできそうです。

 Google Glassのようにメガネのつるで操作するのは不自然だ、ということで、操作はBluetoothで接続する指輪型の端末「Loop」か、米Amazon.comの音声アシスタント「Alexa」を使って行います。Loopは人差し指にはめて、小さなジョイスティックを親指でぐりぐりしたり、押したりして操作します。Alexaの操作はもちろん音声です。

Loop Bluetooth接続の指輪「Loop」

 Loopはちょっとゴツいので、デザインの選択肢がいろいろ出てくるといいですね。サイズは10段階で選べます。

 ちなみに、マイクから入力する音声をテキスト化することもできるので、SMSの返信などはこれでできます。

 Focalsを作ったのは、かつてコンピュータやゲーム端末を腕や指の動きで操作できるアームバンド状のガジェット「MYO」を手掛けていたThalmic Labsのメンバーです。

MYO アームバンド状のガジェット「MYO」

 創業者のスティーブン・レイクCEOはMYOとGoogle Glassを連携させたら便利だと思ってGoogle Glassを研究したんですが、いかんせんかっこ悪い。そこでかっこ悪くないスマートグラスを開発することにして、結局、MYOのプロジェクトは終了してFocalsの開発にシフトしたのでした。社名もThalmic LabsからNorthに変えて、WebサイトにはMYOの痕跡はほとんどありません(About Usにはあります)。

 レイクさんはFocalsのためにAmazon Alexa Fundなどから1億4000万ドル出資してもらいました(Alexa FundはEssential Productsにも出資しています)。

 コンセプトをピコプロジェクターメーカーに説明して開発を頼んだら「そんなの絶対無理」と言われたので製造も自社でやることにし、何と工場も作って製造から販売まで自前でやることにしたのでした。

 Google Glassもそうですが、網膜投影式のスマートグラスは光線が想定通りの位置にピンポイントで当たらないとくっきり映像が見えません。なので、顔の形が違うそれぞれに合わせてメガネをしっかりカスタマイズしなければならないのです。

 Focalsの立ち上げ段階では、カスタマイズのための装置を置いた地元カナダのトロントとニューヨークのブルックリンに開店する専門ショップでしか購入できません。

Showroom ブルックリンのショップは11月開店

 近視、遠視、乱視といった矯正レンズのFocalsも作れます(Coming Soon)。コンタクトしたままでもかけられます。

 主なスペックは、プロセッサはQualcommのAPQ8009w、バッテリーは700mAh(1回の充電で18時間持続)、デュアルモードのBluetooth 4.2でAndroidスマホかiPhoneと接続します。防水レベルはIP55。重さは約61.6〜66g(サイズによる)。

 LoopはBluetooth LE対応で0.8mAhのバッテリーを搭載(1度の充電で3日持続)。防水レベルはIP66で、つけたまま手を洗っても大丈夫だそうです。FocalsもLoopも、専用ケースに入れて、そのケースにUSB Type-Cケーブルを接続して充電します。

Focals 専用ケースで充電します

 価格は999ドル(約11万円)から、とかなりします。売れるかどうかまだ分かりませんが、発売後の評判が気になるところです。

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