LINEが約5年ぶりに検索サービスに再参入する。試験提供中の画像検索アプリ「LINE Pasha(ラインパシャ)」を機能強化し、2019年上期中にプロモーションを本格化する方針。LINEの検索サービス提供は13年12月の「NAVER検索」終了以来。LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏がその勝算を語った。

LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏
LINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏

 LINE Pashaは検索した対象物をカメラで写すだけで、情報を検索できるアプリだ。例えば、商品写真を撮影するだけで、商品情報を調べたり、ECサイトでの販売価格を比較したりできる。画像認識技術とディープラーニングを組み合わせることで、利用者の撮った写真から瞬時に情報を提供するサービスを開発した。「世界一のビジュアルサーチを目指す」とLINE取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏は意気込む。

 LINEにとって検索サービスへの再参入は悲願とも言える。韓国発の検索サービス「NAVER」を源流に持ちながら、国内では「Google」や「Yahoo! JAPAN」との競争に敗れ、サービス終了を余儀なくされた。その後、オープンな検索サービスとは正反対に位置付けられる、クローズなコミュニケーションサービスとして「LINE」を成功に導いた。

検索したい対象物に、スマートフォンのカメラを向けるだけで検索できる「LINE Pasha」
検索したい対象物に、スマートフォンのカメラを向けるだけで検索できる「LINE Pasha」

 ただ、検索サービスを諦めたわけではなかった。舛田氏はカンパニー制度を取るLINEにおいて、AI(人工知能)カンパニーのCEO(最高経営責任者)でもある。そのAIカンパニーを17年に立ち上げた際、「もう一度、私たちは検索に戻るんだ」という言葉を再三、社員に向けて発してきたという。AI技術を駆使して、新たな検索サービスを作ることは一つの目標だった。ただ、「一度、(検索で)失敗しているため再参入には、及び腰になる」(舛田氏)。勝算の見込めるサービスの開発が見込めるまで、機が熟すのを待ち続けた。

 転機となったのは、またもLINEを生み出したスマートフォンだった。友人間でネット上の情報を共有するときの手段といえば、一昔前はURLを送り合うことだった。時代は変わり、若者の間では共有したい情報ページのスクリーンショットを撮って送り合う方法が広がっている。そのほうが情報量が多く、人に伝えやすいからだ。

 ここに目を付けた。新たな検索方法として、「画像検索」がトレンドになると舛田氏は見た。AIの技術力を磨く上で培った、画像認識技術やディープラーニングを組み合わせて、再び検索に挑む。参入の狙いや、勝算のポイントについて舛田氏に聞いた。

LINEの検索サービス提供は約5年ぶりとなります。再参入の理由を教えてください

もう一度、検索サービスを手掛けたいという思いがありました。私はもともと「NAVER」というプロジェクトを日本で成功させるために入社しましたが、技術以前に利用者が集まらなかった。

 そこで検索とは真逆のサービスを始めました。それが「LINE」です。検索エンジンのクローラーが入り込めないクローズなコミュニティーを作った。検索で勝てなかった我々が、検索ではない世界を目指した。これが大きな成功を収めましたが、LINEの利用者が増える中で、検索にどうチャレンジするかが頭の片隅にありました。検索サービスは一度失敗しているため、再始動させるには技術を投下するにしても及び腰になります。

 ですが、LINEというプラットフォームが進化したタイミングで、もう一度、新しいステージで検索に挑戦しようという機運が高まりました。私たちの源流は検索です。そのDNAが流れているので、LINEをメッセンジャーで終わらせることなく、プラットフォームへと進化させてきたわけです。

検索に懸ける思いは、やはり特別だったのでしょうか。

(日本のLINE)創業メンバーにとって検索は特別なものでした。LINEも従業員が数千人の規模になり、新しいメンバーも多数います。ですが、AIカンパニーを立ち上げるに当たり、私は「もう一度、私たちは検索に戻るんだ」というメッセージを繰り返し発信し続けていました。

 AIカンパニーは最終的には検索に帰結する。それをどこまで本気のメッセージとして捉えていたかは分かりませんが、新しく入社した従業員も歴史をひもとき、その言葉の重さを理解しているはずです。

LINEの画像検索、勝算の根拠は?

「LINE Pasha」は写真撮影で検索できるアプリです。なぜ、画像検索なら勝算があると考えたのでしょうか。

スマホの普及により、誰もが“高機能のカメラ”を持つようになりました。また、サービスの利用はアプリベースになり、知人と情報共有をする際、私ですら画面のスクリーンショットを撮ってそのまま送る。画像は情報量が多いため文章で説明するより簡単だからです。このようなユーザーの行動変化が背景にあります。

 パソコンの世界でも、画像の類似検索は利便性が高かった。ですが、パソコンである限りは誰もが使うサービスにはなりません。例えば、スマホで文章の写真を撮ると自動でテキスト化して、翻訳してくれる。あるいは宝くじを撮影すると、その当選結果が分かる。写真を撮るだけで、素早く疑問が解決できる。そんなスマホの利点を生かしたサービスは生活にマッチすると思います。

 以前、検索サービスを開発していたときにも考えていたことですが、「自分の知りたいことを言葉に抽象化して検索する」という、キーワード検索は高度な作業。うまく使えない人もいます。そういう人でも画像検索なら、抽象化せずに知りたいことを調べられるようになる可能性があります。この新しい検索行動に合致する技術がLINEにはありました。AIを活用した画像認識です。

どのような技術が活用されていますか。

私が管轄するAIカンパニーはディープラーニング、機械学習、ビッグデータなどを組み合わせて、LINEの新しい事業ドメインを作り上げることがミッションとなります。

 LINEが特に得意領域としているのが、音声認識、ディープラーニング、そしてOCR(光学的文字認識)技術です。OCRはAIの技術コンテストで中国のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)といった企業を抑え、認識率1位となるなど高精度を誇ります。これを生かすことで、世界一のビジュアルサーチサービスを開発できると考えました。

集合知を活用してAIを学習

検索結果を返すには、利用者がカメラで捉えた対象をAIが判別するための学習が必要です。

現状のフェーズではまだ認識しやすいものと、しにくいものがあります。大量生産されている工業製品や図鑑に載っている動物、植物などはグローバルに対応したマスターデータがあるので高精度で認識可能です。一方、風景やランドマークのような場所や建物はデータをためていかねばなりません。

 またコンテクストも重要です。例えば、キャラクターが印刷された製品をカメラで捉えたときに、製品ではなく、キャラクターそのものとして認識してしまう可能性があります。あるいは料理なら、人によって盛り付けが異なります。決まった形がないものは、学習データを加えていく必要があります。

 そこで、利用者のナレッジで作り合う「Wikipedia」のように集合知を活用します。LINE Pasha上では(日本の紙幣の裏表を撮影してみよう、など)さまざまなイベントを開催しています。このようにミッションを与えることで、楽しみながら、図鑑を埋めていってもらうイメージです。利用者が撮影した教師データを蓄積していってAIに学習させることで、精度を高めていきます。

既存のLINEのサービスとの連携などは考えていますか。

「LINEショッピング」では画像で検索できる「SHOPPING LENS」として機能提供している
「LINEショッピング」では画像で検索できる「SHOPPING LENS」として機能提供している

(ポイントモールサービスの)「LINEショッピング」には、既にLINE Pashaの機能を「SHOPPING LENS」として導入しています。写真を撮るだけで、LINEショッピング上の商品を検索できます。一方で、LINE Pashaで撮影しても、LINEショッピング上の1億点もの商品から合致するものを検索結果として表示できるようにして、LINEショッピングへの誘導を図っています。

 このように他のサービスとの連携を進めていきます。漫画の表紙を撮るだけで、「LINE漫画」の商品を探したり、料理の画像を読み込ませるだけでフードデリバリーを案内したりできるサービスが考えられるでしょう。

検索連動型広告など、広告サービスも期待できますね。

広告は今後、サービスが本格化する中で検討していく必要があります。例えば、検索したときに買いたい、注文したい、プレゼントしたいといった直接的なニーズとつながるサービスは広告モデルとして考えられるかもしれません。

 また、画像検索機能を外販する可能性もあります。LINEでは「LINE BRAIN」というプロジェクトを進めています。これは自社で培ったAI技術を、BtoB(企業間取引)で提供するためのプロジェクトです。AI技術は生産性の向上や、企業価値を高める上で重要性が高まっているにもかかわらず、人材の枯渇などが要因で活用できず困っている企業が多い。そういった企業に技術提供をしていきます。LINEが技術を外販するのは初めてです。

 その一環として、画像検索を企業ニーズに合わせて提供することになるでしょう。画像認識技術の活用では、他にもOCRを使うことで、何千枚とある企業内の資料を一気にデータ化して、ペーパーレスを推進できるかもしれません。

 ですが、まだ課題も多い。学習が十分ではなく誤ることもあります。また、認識スピードが速すぎるので、もうワンテンポ置いてから結果を返したほうがいいのではないかといった、使い勝手の面でも意見が出ています。今後は動画検索や、複数の画像を一気に認識させて検索できる機能も検討していきます。

(写真/山田愼二)

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