「うに牧場」とかいうこの世の楽園

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世界にひとつだけの「うに牧場」

「うに牧場」

聞いた瞬間、頭の中が「???」となるワードですが、現地に行って納得しました。

 

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▲通常時のうに牧場

 

北三陸・岩手県洋野町(ひろのちょう)。

何の変哲もないこの海岸に、なんと 「世界にひとつだけのうに牧場」が眠っています。

いったいどういうことなのか。

 

その秘密は干潮時、明らかに……。

 

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▲干潮時に真の姿が現れる

 

なんと潮が引いた後に、おびただしい海藻で覆われた多数の橋や溝が現れました。

 

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▲溝の中に黒い塊が多数見える

 

溝の中を覗き込むと、そこには黒っぽい塊と長いフワフワしたものが。目を凝らすと、それは……。

 

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▲数百万ものウニが放牧されている

 

ウニ! そして昆布!!!!

 

まるで草原でのびのびと育つ牛のように、広大な昆布畑のなかでウニたちが自由に昆布を食べていました。

 

なぜ、洋野町の海岸が「ウニの聖地」なのか 

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▲大きなウニを片手に微笑む、下苧坪社長

 

そこに現れたのは、この「うに牧場」で加工販売を営む「株式会社ひろの屋」の代表取締役社長、下苧坪(したうつぼ)さん。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:こんにちは。今年も洋野町「うに牧場」から最高品質の「北紫ウニ」をお届けする季節がやってきました。

 

── こんにちは。すごい場所ですね! なんだかゲームの世界にでも迷い込んだみたい。海底神殿とかそんな感じです。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:そうでしょう。ここは世界でも唯一の「うに牧場」なんです。約50年前、祖父たちの時代に漁師が知恵を絞ってつくりあげた、言わば聖地なんです。

 

── ウニの聖地……ですか?

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:はい。実はウニってすごい雑食で、タイヤやプラスチックまで食べてしまうことをご存知ですか?

 

──ええ! そんな固いものや、まったく栄養のないものを食べちゃうんですか?

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:ウニは英語で“sea urchin”と表記するのですが、直訳すると「海のいたずらっこ」。目の前にあれば海藻でもプラスチックでも、なんでもかんでも食べてしまいます。「磯焼け」なんて言葉をニュースで聞かれるかもしれませんが、魚たちが卵を産むための海藻もウニたちが食べ尽くしてしまうんです。

 

──すごい食欲。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:そのくせ、プラスチックなども食べてしまうので身入りも味も悪いウニが続出していて。海中にウニがたくさんいるのに、割ってみるとどれもスカスカ……なんて現象が各地で起きているんです。

 

──魚の生態系を崩すほど海藻を食べるのに、そのウニ自体も品質が悪いなんて困ったものですね。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:本当にそうなんです。しかしその課題を解決したのが「うに牧場」なんです。もともと広大な岩盤地帯(沖に50〜100m、横に十数km)があったこの地に、先人たちがたくさんの溝を掘り、大量の天然昆布が生える畑をつくったんです。そこにウニを放牧し、昆布だけをお腹いっぱい食べさせたところ、身入り・味ともに抜群のウニをつくることに成功しました。

 

──それはすごい! お祖父さんたちに感謝ですね。そしてこの地にあった広大な岩盤にも。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:はい。こんな巨大な岩盤地帯は、世界でもほとんど無いでしょうね。かつては大型の船がつけられない困った地形だったようですが、今では神様からの贈り物だと思っています。

 

4年かけて育てる最高品質の北紫ウニ

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▲約250万匹の赤ちゃんウニを育てている

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:せっかくなので「ウニ栽培センター」も覗いてみてください。こちらではウニを孵化(ふか)させたり、赤ちゃんウニを水槽で育てたりしています。

 

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▲しきりに歩き回る姿がかわいかった

 

──か、かわいい……ウニの赤ちゃんて、こんなに小さいんですね。手のひらで動き回って、なんだか愛おしいというか。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:こんなに小さくても、食欲はすごいですよ。センターではこの子たちにも大量の昆布や藻を食べさせて、1年間大切に育てます。

 

──その後は「うに牧場」に?

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:その後は「うに牧場」から少しだけ沖に出た場所に2年間放流します。牧場ほどではありませんが、その場所にも天然の昆布がたくさん生えているんです。そして4年目、いよいよダイバーの手で「うに牧場」へ移動されたウニは、牧場の昆布をモリモリと食べ、身入り・味ともに最高品質へと仕上がるわけです。これが合計4年をかけて育てる洋野町の北紫ウニです。

 

──すごい! まるでブランド牛のようですね。そんなに手間ひまかけてウニを育てている地域って他にあるんですか?

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:そうないと思いますよ。地形の特殊性もあって、この「うに牧場」を再現すること自体が相当難しいですし。

 

──そうですよね。世界でも稀な、昆布をモリモリ食べて育った「うに牧場」のウニか……きっと美味しいんだろうな。すごくすごく美味しいんだろうな(チラッ)。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:わかりました(笑)。獲れたてのウニを食べさせてくれるお店が近くにあるので、行ってみますか?

 

──やった〜! 行きましょう!

 

「はなます亭」でウニ尽くしを食べる

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▲ほやラーメンなども人気

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:こちらが「うに牧場」のウニを扱うお店「はまなす亭」さんです。ウニの他にもホヤやメカブなど、洋野で獲れた新鮮な海産物を楽しむことができます。

 

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▲洋野町産のウニがイチオシ

 

どれも美味しそう……ですが、気になって仕方がないメニューがあります。

「うにづくし」

せっかくなので、牧場のウニを心ゆくまで堪能させていただきます。

 

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▲最高品質の北紫ウニがもりもり うにづくし(5,000円)

 

──わ〜豪華! ウニの丼に、刺身、焼き、汁、それにパスタまで。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:さあ、洋野の誇る北紫ウニを試してみてください。

 

──いただきま〜す。

 

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▲まずはシンプルに活ウニのお刺身から

 

──お、お、お、お、おいしい! なんですか、この濃厚なうま味と甘み。ものすごく濃くて、口中に絡みついてきます……

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:そうでしょう。うま味の塊である昆布をたっぷり食べさせていますからね。

 

──そして味はこんなに濃厚なのに、鼻から抜ける香りは驚くほど爽やかです。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:ウニに臭みや苦みを感じたことがある方も多いと思いますが、その原因は食品添加物なんです。ウニの形を美しく保つため、加工の段階で添加物を入れることはよくあります。しかし私たちは、「うに牧場」の北紫ウニ本来の魅力を妨げることなくお届けしたくて、添加物などは一切使っていません。

 

──どうやっているんですか?

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:「うに牧場」を管理する地元漁師たちと連携して、必要な量だけを獲って、すぐ加工・発送するという仕組みをつくっています。

 

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▲必要な量だけを漁師が潜って獲ってくる

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:はまなす亭さんの横にうちの工場があるのですが、そこでは熟練の職人がひとつずつ手作業でウニを剥いているんですよ。

 

──手作業!

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:特にこの刺身・焼きとして並んでいる殻付きの活ウニ。これは「ツボ抜き」といって内蔵をくり抜く加工をしているのですが、ウニにダメージを与えず素早く行なうのは本当に難しいんです。

 

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▲鎌のような道具を使って一瞬で内蔵を抜き取る

 

──熟練の技が必要なんですね。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:あ、汁も冷めないうちにぜひ。これは「いちご煮」という三陸海岸の伝統料理なんです。

 

伝統料理「いちご煮」の味

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▲汁にウニとアワビがいっぱい

 

──初めて聞きました。あれ、この汁……ウニとアワビが入ってる!

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:ウニとアワビを煮立て、その出汁を少量の塩・醤油だけでシンプルに味付けする。それがイチゴ煮です。

 

──なんという贅沢な一品。ウニ・アワビからしっかり出汁が出ています。潮の優しい香りもたまらないですね。ウニは熱が加わって表面の粒は立っているのに、口に入れると優しくクリーミーに溶けていきます。アワビはプリプリで、思った以上に食べ応えがありますね。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:あと、焼きも珍しいですかね。

 

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▲焼くとなぜか潮臭さが抜けてフローラルな香りに

 

──はい、殻付のウニをそのまま焼くなんて初めてです。見た目からインパクトがあってテンション上がりますね!

 

 

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▲頭の中は「美味しい」と「日本酒」でいっぱい

 

──わわわ! おっ……おいしいい! 柔らかめのカラスミみたいに、ねっとりした食感。そして生で食べたとき以上にうま味がギュッと凝縮されてます。これをつまみに日本酒を永遠に飲んでいたい……。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:贅沢な珍味ですよね。酒はもちろん、白飯にも合いますよ。

 

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▲何を食べてもウニ、ウニ、ウニ!

 

──付け合わせのパスタにもウニが! もうとことんウニ尽くしで幸せです。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:生産地だから可能な贅沢使いですね。

 

贅沢すぎる「ウニ丼」のウニの量 

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▲ひと口にこの量のウニはやばい!

 

──そして〆にウニ丼……! この丼だけで何個分のウニがのっているのか……。温かいご飯にのっても盛りの型が崩れていない。添加物なしでこの美しさが保てるのも、新鮮なウニだからですね。

 

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▲口の中がウニの洪水

 

──んんんん! 美味しい! 最初はダイレクトにウニの甘みがするんですが、噛んでいくとお米の1粒1粒をウニがコーティングしていくよう。お米の優しい甘さが加わって、いくらでも食べられちゃいそうです。この品質のウニをお腹いっぱい、しかもさまざまな食べ方でいただけるなら5,000円は安いです。

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:喜んでいただけて嬉しいです。ちなみに現在は、今食べていただいた「稚ウニから育てる4年もの北紫ウニ」に力を入れていますが、今後は「身入りが悪いまま育ってしまった5年目以降のウニ」を美味しくすることも目標にしています。

 

──そんなことが可能なんですか?

 

f:id:tsuri_ambassador:20190503204938j:plain下苧坪さん:大学などと協力して、特殊なエサの開発を進めています。これまで磯焼けの原因となり、その処理に労力と費用ばかりかかっていた「海のいたずらっこ」を、漁師たちの収入源となる「新たな財産」に変えられたらと。そうすれば、消費者のみなさんにより美味しいウニを安定して食べていただくこともできます。

 

──それは素晴らしい! 今後も最高のウニを「うに牧場」から全国へ送り届けていただきたいです。

 

洋野町の「うに牧場」は、ウニにとっても人にとっても、まさに楽園と呼べる場所でした。

 

美味しいウニを育てながら、磯焼けなど漁業全体の課題解決にまで繋がるこの取り組み。現地でいただくことはもちろん、ひろの屋さんの通販サイトで購入することもできるので、今後も「食べる」という楽しい方法で応援していきたいです。

 

お店情報

はまなす亭

住所:岩手県九戸郡洋野町種市22-131-3
電話:0194-65-2981
営業時間:11:00~15:00(L.O.14:30)、日曜営業
定休日:水曜日(祝日は営業)

www.hotpepper.jp

 

株式会社ひろの屋

hirono-ya.com

 

書いた人:中川めぐみ

中川めぐみ

釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。1982年富山県生まれ。グリー・電通で新規事業の立ち上げ、ビズリーチで広報などに関わる。その間に趣味ではじめた釣りの魅力に取り付かれ「釣り × 地域活性」事業で独立。 釣りを通して日本全国の食、景観、人、文化など地域の魅力を発見・発信することを目指す。現在は1年間で「ビギナーにオススメの釣りプラン100」を実施中。9月からは熱海で「ツッテ熱海」(観光客が釣った魚を地域クーポンで買取る取り組み)を開始。

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