東海住みなら知らぬ者はいない「ベトコンラーメン」とはなんなのか

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愛知県のご当地ラーメンといえば、何といっても台湾ラーメンが有名。しかし、もう一つ台湾ラーメンと同様に、ニンニクと唐辛子のパンチがきいたラーメンがあるのをご存じだろうか?

その名も「ベトコンラーメン」。

 

ベトコン、と聞いてついベトナム戦争をイメージする方もいるかもしれない。

ベトコンラーメンとはいつ、誰が考えたのか。そして、なぜ、その名が付けられたのだろうか? その真相に迫ってみた。

 

特徴はニンニクをたっぷり使うこと

ベトコンラーメンを出す店は、愛知県を中心に岐阜県や大阪府、岡山県などにある。ひょっとしたら、今ではそれ以外の地域でも食べられるかもしれないが、発祥の店は、愛知県一宮市で1969(昭和44)年に創業した「ベトコンラーメン 新京本店」

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お店の入口にある「ベトコンラーメン」の文字がわかるだろうか。

 

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まずは、二代目店主の稲垣賀彦さんにベトコンラーメンを作ってもらった。

このプロセスを参考にすれば、ベースがインスタントの袋入り麺でも似たような味になると思う。ぜひ家庭でも試してほしい。

 

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ベトコンラーメンの特徴は、ニンニクの粒がゴロゴロ入っていること

ニンニクはあらかじめ低温の油でじっくりと揚げたものを使い、ベトコンラーメン一杯につき、8粒~10粒も入る。つまり、ほぼニンニク1個丸ごと入っていることになる。

 

f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:ニンニクを揚げた油もモヤシとニラ、豚肉を炒める際に使います。良質なニンニク油ですから、風味がまったく違います。

  

スープは鶏ガラ&豚骨ベース

では実際に工程に入ろう。

まずは中華鍋に油を引かずにニンニクを入れて、表面に軽く焦げ目ができるまで焼く。

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:これは香りを出すためで、ベトコンラーメンを作る上でもっとも重要な工程になります。

 

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次にモヤシを入れて、ニンニク油をかけて強火で手早く炒める。

モヤシがややシンナリしてきたところで豚肉とニラを投入して、さらに炒める。味付けは数種類をブレンドした醤油と唐辛子。

 

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醤油ダレが入った丼にスープを注ぎ、麺を入れる。ちなみにスープは鶏ガラと豚骨がベース。

 

f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:豚骨は砕かずに、丁寧にアクを取りながら煮ていくので、澄んだスープに仕上がるんです。ベトコンラーメンはスープが美味しいからこそ。だから、スープの仕込みも重要なんです。

 

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そして、炒めたニンニクとモヤシ、ニラ、豚肉を麺にのせて完成。

 

疲労回復や風邪のひき始めにも

これが「ベトコンラーメン」(Mサイズ・950円)。

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まずは、麺の上にのるモヤシから食べてみる。

うん、シャキシャキでニンニクのパンチがしっかりきいている。それはスープにもしっかり溶け込んでいて、飲むごとにパワーがチャージされたような気分になる。

 

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パンチのあるスープと麺の相性は抜群。麺の一本一本にも野菜とニンニク、スープの旨みがしっかりと絡む。モヤシを炒める際に唐辛子を入れていたので、辛いのを覚悟していた。

しかし、それは全体の味を引き締めるためのもので、逆に心地良い。もう、野菜とともに食べると、箸が止まらなくなるほど旨い!

 

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ニンニクはジャガイモのようにホクホクの食感。ほのかに甘く、ニオイはまったく気にならない。これも頬張るごとにパワーが満たされていくような気分。実際、疲れているときや風邪のひきはじめに食べに来る人も多いという。

美味しい上に身体にもよい。それが長年にわたって、地元の人々に愛されている理由だろう。

 

由来は確かにベトナム戦争だったが……

それにしても、ベトコンラーメンは何をきっかけに生まれたのだろうか?

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:うちのお店は私が小学生の頃に父がはじめました。父は満州国の新京市で生まれ育ちました。それが店名「新京」の由来です。満州から日本に帰ってきてからは、愛知県一宮市で服屋を営んでいました。

 

愛知県一宮市は繊維業が盛んで、1950(昭和25)年の朝鮮戦争の特需で空前の好景気に沸いていた。機織り機の音がガチャンと鳴ったら一万円儲かることから、“ガチャマン景気”と呼ばれ、繊維業は隆盛を極めた。

稲垣さんの父、稔さんの服店も例外ではなかった。ところが……。

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:オイルショックで打撃を受けて、倒産してしまったんです。あの頃のこともよく覚えています。それまで暮らしは裕福でしたが、一気に貧しくなりましたね。そこで、生まれ育った満州で食べた中国の家庭料理を出すお店をやろうと。当時はカウンター7席の小さな店でしたが、とても繁盛していました。父と母だけでは手が足りなくなって、中華料理の経験のある料理人を雇ったんです。

 

当時のお店の厨房は今のように換気がしっかりしておらず、稔さんは疲労と湿気で食欲不振になり、体調を崩すこともあった。そんなとき、雇っていた料理人がニンニクをたっぷり入れたモヤシの炒め物を作ってくれた。これがベトコンラーメンのヒントになる。

 

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:食欲がないときでも食べられるし、何よりも満州時代を思い出させる懐かしい味だったそうです。体調が悪いときや疲れがたまっているときは、それをラーメンにのせて、賄いで食べていました。それをお客さんに出したところ、おいしいと評判になったんです。
メニューにくわえるにあたって、名前を考えねばなりません。当時はベトナム戦争の真っ只中で、ニュースでも頻繁に取り上げられていました。そこで、ベトナム戦争を勇敢に戦う兵士をイメージして、ベトコンラーメンと名付けたんです。

 

次第にベトナム戦争は泥沼化していき、国内でも反戦ムードが広がっていった。悲惨なベトナム戦争を連想させるラーメンではあまりにもイメージが悪い。しかし、ベトコンラーメンという名前はすでに定着していた。

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f:id:Meshi2_IB:20190325205507p:plain稲垣さん:多くのお客さんから「ベトコンラーメンを食べると、身体の調子がよくなる」と言われていました。そこに着目したんです。つまり、食べるとベストコンディションになる、と。ベストコンディションを略して、ベトコン。名前はそのままに、由来を変えたんです。(稲垣さん)

 

本店で修業した人が独立し、お店を出したことでベトコンラーメンは愛知県や岐阜県から広がっていった。しかも、チェーン展開しているのではなく、昔ながらの「のれん分け」。ゆえに、店ごとに価格やメニューが異なり、食べ比べるのも楽しい。

絶好調なときはもちろん、絶不調でベストコンディションになりたいときも、パンチのあるラーメンが食べたいなら、ぜひ試してみてほしい。

 

店舗情報

ベトコンラーメン新京

住所:愛知県一宮市松島町5
電話:0586-73-5715
営業時間:
11:30~14:30(14:00L.O.)、17:30~21:00(金・土・祝全日は~22:00)
定休日:火曜日

www.hotpepper.jp

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

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