“ファッショナブル路線”を強化するアマゾン、その「次の一手」が見えてきた

アパレル販売を強化しているアマゾンが、インフルエンサーとのコラボを打ち出したコレクションを限定販売する新ブランド「The Drop」を立ち上げた。インフルエンサーの写真をアップすると写真で服を検索できるアプリも投入するなど、“ファッショナブル路線”を強化するアマゾン。一連の動きからは、衣料品業界でもグローバル市場の攻略を狙う戦略が透けて見えてくる。
“ファッショナブル路線”を強化するアマゾン、その「次の一手」が見えてきた
MICHAEL BLANN/GETTY IMAGES

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流行の服を買いたいとき、Amazonは最高にお勧めのサイトとは言い難い。レディースファッションの売れ筋ランキングで上位を占めるのは、地味なアイテムばかりだ。体を締めつけないワンピースや伸縮性が売りのトレーニングウェアをはじめ、靴下や下着まで、聞いたこともないブランドの商品がずらりと並んでいる。だからといって、アパレル販売におけるアマゾンのパワーを軽く見てはいけない。

老舗百貨店が軒並み売り上げ不振に陥るなか、アマゾンは衣料品販売で米国屈指の人気を誇る企業になった。特にミレニアル世代からの支持が厚い。女性向け高級ファッションのショップボップ(Shopbop)や靴のザッポス(Zappos)といった子会社を擁するほか、衣料品の自社ブランドをいくつかもつ。

そしていま、ファッションに敏感な消費者層を新たに呼び込むための試みを始めている。狙うのは、ソーシャルメディアを席巻するインフルエンサーと、そのフォロワーたちだ。

アマゾンはこのほど、新ファッションブランド「The Drop」を発表した。インフルエンサーたちとコラボレーションしたコレクションをシリーズで限定販売するブランドだ。マーケティング資料によると、アマゾンではインフルエンサーたちを「インターナショナル・トレンドセッター」と呼ぶらしい。

コレクション第1弾のデザインを担当したのは、インスタグラムで100万人のフォロワーをもつパオラ・アルベルディだ。コレクションには60ドル(約6,400円)のピンク色のブレザーや、25ドル(約2,700円)のノースリーヴの白Tシャツなどが並ぶ。

販売期間は30時間限りだ。アマゾンによると、「無駄を出さないように」全品オーダーメイド方式をとる。併せてThe Dropでは、ベーシックなデザインのアイテムもとり揃え、こちらについてはいつでも買えるようにするという。

「実用一点張り」からの脱却

大半の衣料品業者より潤沢なリソースを有するアマゾンだからこそ、こうした実験的なことができるのだろう。もしかしたらThe Dropは、これまで現れては消えていった同社のさまざまな試みと同じ道をたどる可能性もある。とはいえ、衣料品のグローバル市場攻略をさらに進めようとするアマゾンの強い意志を示すサインが、またひとつ出されたことは確かだろう。

折しも、コールズやJ.C.ペニー、ノードストロームなど、従来型の実店舗を構える大型百貨店の売上は急落している。「ZARA」「REVOLVE」「ASOS」といったファッションブランドのeコマースに群がる買い物客を奪うには、アマゾンはもっと洗練されたイメージを強化する必要があるだろう。

Amazonは歯磨き粉や洗剤など、実用一点張りの品物を買う際に便利なサイトとして最も認知されている。それゆえに、Amazonで売られているコートなどのファッションアイテムが人気になると、それがニュースになってしまうほどだ。こうした現状を変えるには、ターゲットなどのディスカウントストアが取り入れたことで知られるようになった、「あるアイデア」を借用する必要がある。

ディスカウントストアに見た「あるアイデア」

ターゲットは、高級ファッションブランドとのコラボレーションによる服やアクセサリーの限定コレクションを、何年にもわたり店舗展開してきた。プライヴェートブランドとして19年5月に立ち上げた「Vineyard Vines」とのコラボによる新コレクションもそのひとつだ。

こうしたコラボレーション企画は、必ずしも全体的な売上増を狙ったものではないと、市場調査会社フォレスターのアナリストで、eコマースと小売業の分析を専門とするスチャリタ・コダリは指摘する。「服を買いに来た人は、別の品物も10個ほど買っていきます。せっかく来たのだからついでに買っておこうと考えるのです」

アマゾンはThe Dropで同じようなことを狙っているのかもしれない。限定販売のブレザーを買うついでに、食器用洗剤もいかがですか? といった具合だ。

コレクションを展開することによって、ブランドの認知度を高められるメリットもある。現に『Harper’s BAZAAR』などの高級ファッション誌がThe Dropの特集を組み始めている。普通ならアマゾンの最新ニュースなど取り上げない雑誌だ。

インフルエンサーのパワー

最近のインフルエンサーは、消費者たちに対してデザイナーブランド並みとまでは言わないが、かなり大きな影響力をもっている。インフルエンサーたちには、ますますソーシャルメディアのユーザーたちを巻き込んでいってもらいたい、というのがアマゾンの願いだろう。ソーシャルメディアは、おしゃれな若者たちのショッピングの場でもあるからだ。

この願いは「Amazon インフルエンサープログラム」と称する取り組みを通して、ある程度かなえられている。これはアマゾンが扱う商品のリンクをシェアしてくれるインフルエンサーに、謝礼として売上の一部を支払うプログラムだ。

インフルエンサー御用達のプラットフォームであるYouTubeやインスタグラムなどで展開されているeコマースビジネスを利用するというのも、The Dropの賢いところだろう。なお、インスタグラムはアプリ内でショッピングを完結できるサーヴィスを、このほど開始している。

そしてアマゾンは続けて、またもやインスタグラムの利用者がターゲットと思われる新たなサーヴィスを19年6月に発表した。モバイル端末向けアプリの「StyleSnap」だ。

例えば、キュートなドレスを着てポーズをとるインフルエンサーの写真をアップロードすると、Amazonから似たような服を見つけ出してくれる。アマゾンは画像検索で商品を探せるサーヴィスをすでに展開しているが、それに似ていると言えるだろう。

StyleSnapでは、自分で撮った写真を使うこともできる。インスタグラムのインフルエンサーは、ドレスを買い求めた高級店の名をタグ付けしているかもしれないが、StyleSnapは安価で2日以内にお届け可能な類似品をアマゾンで見つけ出してくれるのだ。

アマゾンのファッション販売を支えるもの

アマゾンはThe DropとStyleSnapのほかにも、実に多くのファッションに関する取り組みを進めてきた。そのひとつである「プライム・ワードローブ」は自宅で試着してから購入を決められる仕組みで、米国では18年にサーヴィスの範囲を広げ、プライム会員全員に追加料金なしで提供している。人工知能(AI)を活用してスタイリストに選んでもらった服を試着してから購入できるサーヴィス「Stitch Fix」に似ていると言えるだろう。

アマゾンは、よりトレンディなイメージの開拓に時間をかけて取り組んできた。すでにファッション誌の編集者を集めており、『VOGUE』からはエディターのキャロライン・パーマーを引き抜いている。パーマーはアマゾンの編集・ソーシャルメディア部門ディレクターに就任している(『WIRED』を発行しているコンデナストは『VOGUE』の発行元でもある)。

しかし、アマゾンがファッション販売で顧客を獲得するうえで最も役立つものは、ソーシャルメディアの集客力ではない。それよりもはるかに強く欲しているのは、同社にとって「資産」とも言えるデータだ。

アマゾンは、利用客がどんなファッションアイテムを自社サイトで探しているか把握している。こうした情報を利用して、インフルエンサーに売れ筋の服をデザインしてもらい、The Dropで販売する。あるいは、消費者のニーズに最も合うファッションをStyleSnapに反映させることもできるのだ。

サイトで検索や買い物をする人が増えるほど、アマゾンは多くのデータを手に入れる。こうして、おしゃれにうるさい買い物客がいま欲しがっている服を、より確実に提供していくのだ。そればかりか、次に彼らが夢中になるはずの流行を仕かけることさえできるかもしれない。


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TEXT BY LOUISE MATSAKIS

TRANSLATION BY MITSUKO SAEKI