取材直後に起こったVTuber「“ゲーム部プロジェクト”騒動」に見る、VTuberビジネスの難題

ゲーム部プロジェクト

人気VTuberグループ「ゲーム部プロジェクト」の運営会社Unlimitedは「コンテンツ東京」に出展していた

近年人気が高まるバーチャルYouTuber「VTuber」業界に、波紋を投げかける事態が4月上旬に発覚した。

渦中のVTuberは、高校生キャラ4人による人気グループ「ゲーム部プロジェクト」。ゲーム実況などの動画を投稿していて、YouTubeでの登録者数は約41万人を誇る人気がある。そのキャラたちを演じていると思われる人物たちが、いじめやパワハラを受けていたり、労働環境が過酷であることをTwitter上で明かしたのだ。人気グループだけあってすぐに大きな話題となった。

運営会社のUnlimitedは4月8日にホームページ上で、問題があったことを認め、声優たちと話し合いをしているとした。

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Unlimitedの「ゲーム部プロジェクトに関するご報告」と題した経緯報告文。初出の4月8日以降、経緯などの追記が重ねられ、4月11日15時の追記で活動を続ける旨を表明している。

ゲーム部プロジェクトの活動が休止するのではないかと、ファンたちからは心配されていた。最終的に、活動の継続、労働環境の改善で合意し、4月19日から活動再開することになった。

記者は偶然その騒動発覚の直前に、Unlimitedを取材する機会があった。4月3日から5日に、東京ビッグサイトで開かれていた展示会「コンテンツ東京」で、取材したVTuber関連企業の中に同社があったのだ。

しかも取材時には担当者から、VTuber業界のトレンドやビジネス、業界の将来性などに加えて、「VTuberが抱える問題」についても聞いていた。この一連の事態は、その直後に発覚した。

「VTuberキャラの面白さ=中の人の面白さ」というリスク

取材内容を改めて読み返すと、同社のVTuberキャラの「中の人」に対する(当時の)考え方がわかり、起こるべくして起こった問題とも思える。また、VTuberはキャラありきか、演じる「中の人」ありきか、という命題を浮かび上がらせた。

VTuberとはバーチャルなYouTuberであり、一般的にはアニメ風のキャラクターをつかって、生身の人間のYouTuberたちと同様に企画や実況を行なう。2Dのキャラもいるが、モーションキャプチャーを使って3DCGで演じているのも多い。また、多くのVTuberには、生身の“中の人”がいる。

取材の際、Unlimitedの関係者は、VTuberキャラの運営の現状とそのリスクについて、説明してくれた。

(現在活躍する)9割くらいの VTuberは、中の人の個性に任せていて、自由にしゃべらせています。中の人の元々の面白さがイコール、キャラクターの面白さになっています。だから、その人がいなくなると(中の人が代わると)、キャラが成立しなくなる。基本的に、中の人のパワーが強くなってしまう。昨年、(VTuber業界で)有名な事件が何件かあったのですが、一つは、中の人が『こんなこと運営に強要されてもうやりたくないです』ということもありました。

VTuberの運営会社からすると、「VTuber の中の人」に思わぬ行動を取られるのは、ビジネス上では扱いづらい、ということになる。一方で、キャラクターはあくまでキャラクターであって、例えばドラえもんの声優が大山のぶ代から水田わさびに代わっても、ドラえもんであることに変わりはない。中の人が代わったことで、キャラクターが維持できないとなれば、ビジネスとして「リスクが大きい」と判断する人もいるだろう。

こういった側面から、担当者は「うちはアニメーションに近い作り方をしていて、台本があり、声優さんがそれをしゃべるという製作をしています」とリスクが少ない制作方式だとした。今回の問題は、平たく言えば労働環境の劣悪さに起因したとされる。VTuber、つまり、中で演じる人間に何時間もゲーム実況を配信させ続けたり、毎日のように動画を作るという作業は、さすがに声優スタッフたちを疲弊させていったようだ。

事業者である運営会社の立場から見れば、「VTuberの中の人の個性に頼るのはリスク」という考え方は、それなりに筋が通っている。ただ、VTuberのファンたちがどう捉えるかは別の問題だ。実際のところ、その演者や声優の個性込みで、ファンになった人もいるだろう。

先日、記者はVTuberアイドルたちのライブイベントを初めて取材した。ファンとVTuberたちの会話のやりとりは、大筋の台本が用意されてはいるのだろうが、VTuberの中の人の個性が、その魅力の多くを占めているとも感じさせられた。この点は今後も論議を呼びそうだ。

VTuberという新市場を健全に育てていけるか

表沙汰になって以降、Unlimitedは今回の問題で、全面的に非を認めている。取材メモをたどって印象的だったのは、VTuber業界に対する考え方に筋が通っていて、流行に乗って浮ついている様子はないことだった。VTuberの流行についても、こう冷静に見ていた。

「流行はこの1、2年の話。どれが将来生き残るか、まだわかりません。VTuberは当初、数十人、数百人だったのが、今や6000人以上と言われています。しかし、ちゃんと事業として、マネタイズができているのは、ごくわずかの1%とかそれくらい。ほとんどは、個人が趣味で行なっています。企業がお金をかけて、VTuberをやり始めたりしていますが、もうからないからやめた、ということもある。正直、市場がまだ若すぎて、もしかしたら1年後には誰もいないかもしれない」(担当者)

不安を抱えながらも取り組んでいるが、それでも生き残り方はある程度見すえている。

「一過性の盛り上がりにはせず、コンテンツとして確立したい。さまざまなメディアに進出し、アニメなのか映画なのかグッズなのかわからないですけど、そのIP(知的財産)展開をしていくのが、一つの生き残り方かなとは思います」(同)

これらの発言直後に、今回の問題が発覚した。せっかく広がりはじめたVTuberの世界が縮小して欲しくないのは、ファンも同じだろう。雨降って地固まるとなるのか。ゲーム部プロジェクトの活動再開後が大いに注目される。

(文・大塚淳史)

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