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オタク文化大衆に、新日本プロレスを立て直したブシロードが上場

更新日時
  • SNS活用で新日本プロレスの売上高5倍、海外強化でWWEに挑む
  • ネットの普及で一般層にも浸透、コンテンツ発掘し広める-橋本社長

国内最大のプロレス団体である新日本プロレスリングが一時の低迷を乗り越え、急成長を続けている。ゲームやアニメ関連の事業を手がけるブシロードが親会社となって以降、SNSの活用などPRに力を入れたことで女性を含めファン層が一気に拡大した。このほど上場したブシロードはプロレスを含む日本発のコンテンツの魅力を訴求し、さらなる成長を目指す。

  ブシロードは07年に創業。トレーディングカードや「クレヨンしんちゃん」、「ラブライブ」など他社コンテンツを活用したスマホゲームなどを手がける。橋本義賢社長は都内でのインタビューで、自社をプロレスを含めアニメやゲーム、小説など良質なコンテンツを発掘して世の中に広める「IP(知的財産)のデベロッパー」と位置づけ、上場で調達した約40億円の資金は新たなコンテンツの獲得や宣伝に投じたいと話した。

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SANADA (左)とオカダ・カズチカ

Source: New Japan Pro-Wrestling Co.

  新日本プロレスはブシロード創業者の木谷高明氏(現取締役)がプロレスファンだったこともあり、12年に買収して子会社とした。新日本は1972年にアントニオ猪木氏が創業。70年から80年代にかけて民放キー局がゴールデンタイムで生中継するほどのブームとなり、売上高は猪木氏が引退した98年にピークの40億円近くに達した。

  その後は総合格闘技の台頭や選手の大量離脱もあって低迷を続け、売上高は2012年1月期には11億円程度まで落ち込んだ。ブシロードによる子会社化以降はV字回復し、19年7月期は前期比7.5%増の54億円の見通しと5倍に増えている。現在は約70人の所属レスラーで年間約150試合を開催するが完売率約95%とチケット入手が困難な人気という。

  復活の原動力の1つはSNSだ。レスラー自らツイッターで選手の個性や団体内の対立構造などの情報を発信することで試合のドラマ性を高めた。人気選手をテレビのバラエティーなどに積極的に出演させるイメージ戦略も奏功して昔は成人男性がファンの9割以上を占めていたが現在では4割が女性、1割が子供という。

  ゴールデンタイムのテレビ放映はなくなったが、14年から始めた動画配信がこれを補っている。スマホでも視聴可能な有料配信(月額999円)の会員は現在約10万人。英語サービスも展開しており、利用者の約半分は海外のファンだという。

利益率20%視野

  新日本プロレスは売上高で世界2位のプロレス団体。首位の米ワールド・レスリング・エンターテイメント(WWE)との売上高の差は1990年代には2倍程度だったが現在では約20倍に広がっている。新日本のハロルド・ジョージ・メイ社長はショー的な要素が強いWWEとスポーツとしてのプロレスを掲げ、真剣勝負を基本とする新日本はカラーが異なるため対抗する余地はあると話す。

  メイ社長はWWEにプロレスの「中身で負けると思っていない」とし、今後、英語圏を中心に海外興業を増やすほか、動画配信やテレビ放送など映像ビジネスを拡大する予定でWWEに追いつく「ポテンシャルはある」と述べた。

  橋本社長は、会社として「100億円の売り上げがあるIPを10個持つことが目標」とし、プロレス事業についても5-10年をめどにその規模に持ち込みたいと抱負を述べた。プロレス事業の利益率は15%程度だが、映像事業からの収入の比率が増えれば「20%ぐらいは取れるようになってくると思う」とも話した。

  ブシロードはプロレス事業以外ではあまりM&A(企業の合併・買収)は手がけてこなかったが、橋本社長は今後は「IPを持ってる会社を買うことはあるかもしれない」と選択肢に入れていることを明らかにした。

  東京商工リサーチ情報部の後藤賢治課長は、新日本プロレスの急成長について女性や海外など「これまでなかったところから売り上げを立てたこと」が要因だとし、「今や優良企業」と評価。ただ、飽きられて頭打ちとなる可能性もあり、英語圏以外への進出や若手の育成など進化を続けていく必要があると話した。

声優ライブで武道館満員

  ブシロードで最も大きいのはトレーディングカード事業だ。「カードファイト!!ヴァンガード」は61カ国で販売され、毎年恒例の「大ヴァンガ祭」には約2万人が参加。自前で抱える声優のライブは日本武道館が満員になるという。

  橋本社長は同社が扱うのは「10年前だったらアキバ系といわれていた」ようなコンテンツだという。インターネットの普及で簡単に情報を入手できるようになったいま、従来はオタクと呼ばれる一部の人にしか知られていなかった趣味を好む人々が増えてきた。特に10-20代の若い世代ではその傾向が顕著という。

  「パラダイムが変わっている。昭和を生きてきた人は気づかない」。今回、上場を決めた背景にはブシロードが得意とする種類のコンテンツが世間に広く受け入れられる素地ができたため一気に事業を加速させるタイミングと判断したこともあったという。

  東京商工リサーチの後藤氏は、埋もれているコンテンツを発掘するブシロードの目利き力は評価できるとし、海外での事業強化を考えるなら「上場をして信用を得ることはよいこと」と述べた。

  ブシロードは7月29日に東証マザーズ市場に新規上場。初値は公開価格を17%上回る2204円をつけた。株価はその後も上昇基調を続け、8日に終値として上場来高値の2452円となった。19日は前営業日から反発して取引を開始。一時12%高の2527円まで買いが進み上場来高値を更新し、11%高の2503円で取引を終えた。

(最終段落のブシロード株価の情報を追加して更新します)
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