トマトが積まれる荷台にはホールフーズとアマゾンのロゴ
REUTERS/Mike Blake
アマゾン・ドット・コムが、米スーパー大手ホールフーズ・マーケット(WFM)の買収を発表してから、1年余りが経った。「アマゾン効果」で、ホールフーズの価格競争力は、他の大手スーパーよりも増し、優位な位置につけている。ホールフーズはこの1年、どう変わってきたのか。
7月下旬、ニューヨーク市内にあるホールフーズ、中間流通を省いて自社ブランドを多くして格安にしているトレーダー・ジョーズ、マンハッタン地元資本のスーパーであるウェストサイド・マーケットに行って、フルーツの値段を比べてみた(7月27日調べ)。
ホールフーズ、トレーダー・ジョーズ、ウェストサイド・マーケット3社のフルーツの値段比較
著者作成
以前は割高だけどオーガニックだからという理由でわざわざホールフーズで買っていたフルーツが、トレーダー・ジョーズの値段と拮抗し、ウェストサイドで売っていたノンオーガニック品よりも安くなっている。
フルーツなどがここまで安くなったのは、買収直後からの段階的値下げによるものだ。買収が完了した2017年8月28日から、オーガニックの牛乳、バナナ、卵、アボカド、枝付きトマトなどが値下げとなった。Business Insiderのバスケット調査(15品目)によると、買収前は$97.76だったが、買収後$75.85と22%も下がった(ニューヨーク・ブルックリンでの調査)。
この後も3回の値下げがあり、高級魚やフルーツなどで最大半額になったものもある。
店内も、随所でホールフーズがアマゾンと合体したことを思わせるサインがある。Amazon.comのロゴの下にある矢印が「prime」と合体したサインは、ほぼどのコーナーにもある。これは、アマゾンのプライム会員が得られる値引きを示すもので、「会員優待」は以下の5つになる。
- 黄色いSaleサインが値札にある商品は、さらに10%オフ
- 会員特別価格
- プライム会員がプライムVisaのクレジットカードを利用すると、5%のキャッシュバック(一部商品は10%)
- 24都市で即日宅配が可能に
- 会員向けピックアップロッカーの拡充
「味が落ちたので買わなくなった」
どのコーナーにもアマゾン・プライム会員には「優待」があるという表示がある。
撮影:津山恵子
しかし、アマゾンによる買収後、ホールフーズのコアだった「品質」が犠牲になっている可能性が指摘される。
「ホールフーズのオーガニックのリンゴを毎日食べていたけど、味が落ちたので買わなくなった。以前は1ポンドが3.5ドルぐらいしたけど、今はもう2ドルを切っている。オーガニックのイチゴも以前は1パック5ドルだったのに、今は3パックで10ドル。安くなったけど、これは本物(のオーガニック)なのかなあ、と思う。オーガニックの牛乳もおいしくなくなったので、他に買いにいっている」
と話すのはマンハッタン在住の会社社長、矢澤とみ子さん。矢澤さんはテキサス州ダラスに住んでいた1999年からのホールフーズファンだ。
「ダラスでオーガニックのものが手に入れられなかった当時から、味や品質にこだわっていたので、値下げで品質を犠牲にして欲しくない。今回のアマゾンによる買収はとても残念」
品質に対する不満は、全米に及んでいる。
Business Insiderのインタビューやソーシャルメディアへのポストによると、商品が「傷んでいる」「変色している」「味が落ちた」「腐っていた」「早く傷むようになった」と感じている消費者が少なくない。
「売り切れ商品が目立つようになった」という苦情も多い。バナナ、リンゴなど、アメリカ人が常に買う品物だと、品切れのストレスは大きい。ちなみに筆者が行ったホールフーズでも、プライム会員向けの値引き対象となっているアメリカン・チェリーがほぼ売り切れだった。
カリフォルニア州サンタモニカのジャネット・ワグナーさんは週に2回買っていたバナナ、トマト、アボカドなどの値段は下がったが、腐るのが早くなったと感じている。
「店の雰囲気も変わってしまった。フルーツや野菜の品質がよければ、他に行って、高い値段を払って買います」
ノンオーガニックの大量生産品が増えた
格安スーパーのトレーダー・ジョーズのイチゴは、ホールフーズよりも高くなってしまった。
撮影:津山恵子
定期的に同じ店舗を訪れているバークレイズのアナリストも、クライアントに以下の報告をしている(BIが掲載された2017年12月時点)
- 通路に商品を入れていた箱が散らばり、午前10時になって補充をしていた。
- 卵を売っていたコーナーが変更され、マッシュルームは野菜コーナーの中で頻繁に場所が変わっている。
アナリストらは、「トロピカーナ・オレンジ・ジュース」など、ノンオーガニックの大量生産品の陳列が増えたことも報告している。
筆者も、ホールフーズを訪れて、雰囲気が変わったと思っている1人だ。以前は見なかった品切れが目立つだけでなく、商品が少なくなった陳列棚が放置された結果、他の商品が倒れて散乱していたりするのを見るようになった。生鮮品のコーナーで、トマトの枝などが落ちていたりする。以前はなかったことだ。
買収効果でホールフーズの売り上げ増
一方で「買収効果」は、明らかだ。フォーブス誌によると、ホールフーズ(アマゾンの実店舗セグメント)の売上高は、買収されなかった場合に比べはるかに伸び幅が大きい見込みだ。2018年通年の見込みは、買収されなかった場合163億ドル、買収後は173億ドルと10億ドルもの差がある。
大々的にプライム会員向けの特典の宣伝を行うホールフーズ店内。
筆者撮影
成長の理由は、より多くのプライム会員がホールフーズに訪れるようになったことだ。アマゾンにとっても、ホールフーズで買い物をするためにプライム会員数が増えるなど、相乗効果にもなっている。
アマゾンの成長も順調だ。株価は過去1年に80%上昇した。8月6日(米東部時間)現在、時価総額は9010億ドルと、現在時価総額でトップを走るアップルの1兆ドルに肉薄している。
アマゾンの買収によりホールフーズが変化してしまうのではないか、という懸念は、買収発表直後から、特にミレニアルを中心に強かった。それが指摘されていながらも、値下げだけが進み、多くの消費者が品質の低下を見るようになった。
アマゾンはホールフーズを手にし、オンラインでは難しいとされていた生鮮部門への足がかりをつかんだ。生鮮部門だけは「品質」を確保していくという決断もできたはずだ。いかに業績や株価が好調でも、アマゾンは「価格が安ければいい」という企業として見られる危険性が高まるとも言える。
(文・津山恵子)
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