ソフトバンクグループ傘下で「ヤフー」を展開するZホールディングス(HD)とLINEが経営統合を検討していることが明らかになった。日経新聞の報道を受けて14日、両社は「協議を進めていることは事実」と認めた。

 あるLINE幹部は「我々の相手は中国の騰訊控股(テンセント)やGAFAなど世界の巨人。だが今の規模では戦えない。だから手を組める相手を探していた。グローバルで存在感のある国内企業というと、相手はソフトバンクさんくらいしか見当たらなかった」と話す。幹部によれば具体的な話し合いが始まったのは今年6月頃のことという。

タイで人気のLINEだが、アジアでは有力アプリのサービスの垣根を超えた競争が激化している。
タイで人気のLINEだが、アジアでは有力アプリのサービスの垣根を超えた競争が激化している。

 「我々とソフトバンクとは補完的な関係にある」とも幹部は話す。ZHDの親会社であるソフトバンクGは国内に強い営業力を持ち、ヤフーをはじめとする様々なコンテンツを抱えるが、開発力には課題があったという。一方でLINEは充実した開発陣を抱えるが、営業力には課題を持つ。両社の強みを合わせれば、デジタル決済分野などで強いプレーヤーになれると見た。

 当面は国内事業で相乗効果を発揮させていく算段だが、その先には「もちろん海外での積極展開が控えている」(同)。

 たとえばアジア。LINEはタイで人気を誇っており、一般的な対話アプリとして広く認知されている。仕事の場面でもメールではなくLINEの方が利用されている感覚だ。しかし他の近隣諸国では状況は異なる。

 米国のアプリ調査会社アップアニーによれば、フィリピンで人気の対話アプリは米フェイスブックが展開するメッセンジャーやワッツアップ、楽天のバイバーなど。マレーシアやシンガポールではこれらに加えてテンセントのウィーチャットなどが加わる。まだアジア全体を支配するほどのアプリは登場していないものの、今後競争が激化することは確実だ。

 LINEがアジアで直面しているのは対話アプリとの競争だけではない。同社はタイでタクシーの配車や決済、食事のデリバリー、買い物代行、宅配など様々なサービスを提供している。ただアジアではそれぞれの領域で強力なライバルがうごめき、それぞれのプレーヤーが他社のサービス領域に「越境」し、消費者を奪い合う動きも頻繁に起きている。その筆頭が、ライドシェア・配車アプリを軸に様々なサービスを展開するソフトバンクG出資のグラブや、テンセントなどが出資するゴジェックだ。

 国境も、サービスの垣根も超えて「スーパーアプリ」の地位を巡る競争が起きている。LINEがここで手をこまぬいていれば、大規模な資金調達を次々と実施している各地の有力スタートアップに脅かされ、牙城であるタイ市場まで奪われかねない。

 ソフトバンクGと組めば景色は一変する。配車アプリのグラブに中国の滴滴出行(ディディ)、インドのオラ、中国動画投稿アプリの北京字節跳動科技(バイトダンス)、インドホテル運営大手のOYO(オヨ)ホテルアンドホームズに同モバイル決済大手のペイティーエム、そしてインドネシアEC最大手のトコペデイアと、ソフトバンクGはアジア各地で急成長するスタートアップにことごとく出資している。

 ただ対話アプリについては手薄で、有力な企業は抱えていなかった。つまりソフトバンクGにとってLINEはネットサービス分野のポートフォリオを埋める最後のピースであり、そしてLINEはソフトバングGを「案内役」に、有力スタートアップと組み各地で対話アプリをはじめとした自社サービスを展開していく道が開かれる。

 上述の幹部が話すように、当面は国内事業で相乗効果を発揮していくことに重点が置かれる見通しだが、現状のソフトバンクGのポートフォリオでLINEが特異なポジションにある以上、海外でも比較的早いタイミングでシナジーを見込んだ施策が登場するだろう。ただ投資先でシェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーがつまづいたことにより、ソフトバンクGの前のめりな戦略に対して市場からは疑問符も付いている。今回の統合とその後の取り組みは、孫正義会長兼社長が進める連合経営の真価が問われるものになりそうだ。

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