歴ログ -世界史専門ブログ-

おもしろい世界史のネタをまとめています。

歴ログ-世界史専門ブログ-は「はてなブログ」での更新を停止しました。
引き続きnoteのほうで活動を続けて参ります。引き続きよろしくお願いします。
noteはこちら

ビール愛好者が作った世界の6つのビール政党

20180531130344

Photo by Halicki

ビール好きが徒党を組んで選挙に出たらこうなる 

個人的な話ですが、ぼくはビールが好きです。

 コアなビールファンの結束力って凄くあって、「お酒何を飲みますか?」「ビールだけでずっといけますね」と返されたら、その人とはもう数年来の付き合いのような親近感を覚えます。

ビール好きの結束力は昔からあったに違いなく、実際にビール好きが集まって政党を作り、国政に打って出た事例が世界に数多くあります。

ということで、今回は「世界のビール好き政党」のまとめです。

 

1. ポーランド・ビール愛好者党(ポーランド)

20180531130344

Photo by Halicki

本気で国民生活の向上を図ったビール好き政党

ポーランド・ビール愛好者党は1990年に設立された政党。

アダム・ハーバーという人物が、雑誌パン・マガジンにてビール愛好者党の設立を呼びかけたところ、すぐにハガキで5,000名もの希望者から入党申し込みがあったそうです。

設立当初の目的は、「ポーランドのウォッカの消費量を減らし、代わりにビールの消費量をあげること」。ポーランドではウォッカの飲み過ぎによる健康被害が深刻で、代わりに「健康的」なビールを飲むことで健康促進を図ろうとしました。

初代党首のヤヌシュ・レヴィンスキが書いた党の歌はこのようなもの。

ビールを飲もうぜ、もう一杯、そらもう一杯

ほろ酔いになってきただろう

度数の強い酒はやめて

ビールジョッキを手に持とう

設立当初はジョーク政党に近いものでしたが、パブでビールを飲みながら議論を重ねるうちに、

「美味しいビールを飲みながら政治談義をすることは、結社と表現の自由、知的活動、高い生活水準の象徴である」

と自分たちの活動を定義するようになり、ポーランド国民の生活の質の向上を本気で考える政策集団に変化していきました。

たかがビールで大げさなと思いますが、1989年に自由選挙が導入され民主化が達成されたばかりで、思い切りビールを飲み闊達に議論することは自由の象徴だったのでしょう。

ポーランド・ビール愛好者党は1991年の下院議会に打って出、既存の政治に失望した人々の支持を集めてなんと16議席も獲得。下院議会の中堅政党にのし上がりました。

党首ヤヌシュ・レヴィンスキはポーランド・ビール愛好者党をキワモノ政党ではなく、より国民の意見を吸い上げる国政政党にすることを目指しましたが、あくまで「ビールの消費量を上げる」という設立当初の目的に固執する党員との対立が生じます。

1992年に党は「大ビール愛好者党」と「小ビール愛好者党」に分裂し、大ビール愛好者党は「ポーランド経済計画党」という名称に変更。

小ビール愛好者党はその後もポーランド・ビール愛好者党の名前で活動を継続しますが、1997年にすべての議席を失いました。

 

2. ビール愛好者党(ロシア)

20180531130517

「民衆のための政党」を目指すロシアのビール党

ロシアのビール愛好者党は、1994年に設立されました。

メンバーのウラディミール・サナティンは、「クレムリンはウォッカ好きによって占拠されている。ウォッカ好きがこの国を惨めな状況に追い込んだ」と批判。

「ビールを愛する人は、洗練されており、信頼するに足り、現代的価値観に合う」として、暴力的な政治を廃し、政治をビールパーティのように楽しいものにすることで民衆に政治を取り戻すことを目指すとしました。

党は約1年で5万人もの党員を獲得。1995年のロシア連邦の2回目の議会選挙は43もの党が登録され、ビール愛好者党も候補者を擁立し、党のマニフェストとして「人権、自由貿易、完全雇用、税率の引き下げ」を盛り込みました。 

しかし得票率は0.3%以下で1998年の選挙では登録が認められず、以降も国政選挙には出れていませんが、現在も細々と活動を続けています。

PR

 

3.ビール愛好者党(ベラルーシ)

20180531130558

自由経済と個人の権利を訴えたリベラル政党

ベラルーシ・ビール愛好者党は1993年にヴァディム・チェルニショフという人物によって設立された政党です。

選挙では人々の関心を得るために「人々により良い品質のビールを」と訴えましたが、真の目的は「より自由なベラルーシを目指す」ことにあり、国家の独立と自立、リベラルな経済政策や個人の権利を訴えました。党の発表によると、600名ものメンバーが入党したそうです。

1995年、党首のアンドレイ・ロマシェフスキーがベラルーシ国旗を燃やした容疑で逮捕され、その後ベラルーシを脱出してチェコに亡命。

党は壊滅状態になり、1998年に裁判所の命令により清算されました。

 

4.ウクライナ・ビール愛好者党(ウクライナ)

20180531131254

国政で活躍することなく消えていったウクライナのビール党

ウクライナ・ビール愛好者党は1992年に設立されました。

民主主義、環境保護、自由経済、個人の自由の尊重を掲げ、より多くの人々が政治参加する大衆政党を目指しました。

しかし最盛期でも党員は1,500名を超えずに低調で、1995年の選挙ではそもそも立候補できず、1997年の選挙でもリベラル政党を排除する当局の妨害によって、ポスターの印刷すらできなかったようです。

結局ウクライナ・ビール愛好者党は議席を獲得できないまま、2000年に党名を変更し消滅しました。 

 

5.ビール友の党(チェコ)

20180531131110

政治活動に失敗しビール啓蒙協会へ

ビール友の党(Strana Přátel Piva)は、チェコのビール生産の中心地であるピルゼンで1990年1月に設立されました。

長年チェコスロバキア共産党による支配が続いたチェコでは、1989年に民主化勢力に政権が渡されて以降、極めて短期の間に様々な政党・団体が設立されては統廃合を繰り返していました。

ビール友の党はそのような活発な民主政治の熱狂の中で誕生した政党で、中心となったのはピルゼン大学教育学部の学生たち。ビール友の党は誕生してすぐに1万5千人もの党員を集め、1990年の選挙に打って出ますが、わずか0.1%の得票率で失敗に終わります。

ビール友の党は組織の体制を整備し、子供たちへの教育プログラムやビールイベントの開催など草の根活動を実施し、中道左派政党であるチェコ社会民主主義(CSSD)とも連携するなど着々と選挙への準備を進めたのですが、1993年の選挙では得票率1.3%とまたもや敗北しました。

1997年10月にビール友の党は「ビール友の協会(Sdružení přátel piva)」に団体名を変更。中道左派政党・チェコ国民社会党(SD-LSNS)と連携するも、SD-LSNS共々無残に敗北。

ここにおいてビール友の協会は政治活動をストップ。現在は、正しいビールの作り方の教育、ビールフェスティバルやコンペティションなどの開催、海外へのチェコビールの啓蒙活動など、ビールを中心とした教育・啓蒙活動を行う組織として活動を続けています。

公式サイトはこちら

 

6. アメリカ・ビール愛飲者党

20180531131440

Image from "american beerdrinker sparty"

冷たいビールをやりながら草の根で政治変革を目指す党

1997年、オハイオ州レイクウッドにあるバー「アラウンド・ザ・コーナー」にて、ブディー・ピルスナー(Buddy Pilsner)とモルト・リカー(Malt Liqur)がビールを飲みながら政治談義をしていたところ、2人は「ある簡単な真実」を発見しました。

それは「一見正しそうに見える政策や制度でも、その裏には不純な動機が潜んでいるため、アメリカの政治の大部分は間違っている」こと。

2人は既存の政治システムを刷新し、憲法を前提としながらも、市民の要望に基づいた政治システムを建設することを目指し、アメリカ・ビール愛飲者党の設立を宣言しました。

ウェブサイトの更新が全然ないので正確にはわかりませんが、現在のコアメンバーは設立メンバーの2名にサースティ・ラガー(Thirsty Lager)を加えた3名。名前がふざけてますね…。

具体的にどんな活動をしているかも謎ですが、パブでビールをしこたま飲んだままゴルフに行ったり、ドイツにビールを飲みにいく「外交活動」をしているとあります。ちゃんと働け!

公式ウェブサイトはこちら

PR

 

まとめ

 この他にも、ノルウェーに「ビール統一党」、ドイツにも「ビール愛好者党」があるようなのですが、情報がほとんど見つからずに書くことができませんでした。

 東欧の国ではアンシャン・レジームの象徴はウォッカで、ソ連の衛星政党による権威主義的な支配と密接に結びついていて、それを打破するリベラル・親欧米勢力の象徴がビールという構図になっているようです。

ビールという冠は欧米リベラル思想の暗喩であって、冷戦終了後は数多く生まれたようですが、ポーランド以外は特に大きな勢力となることもなく終わっています。

一方日本では、ビールは美味しいし、アル中問題も深刻ではなく、問題はあるにせよ一応民主主義国家なので、ビール愛好者党は必要ないのかも知れません。

でもやっぱり、ビール好きで徒党を組んで飲みながら議論したら楽しんでしょうね。

 

参考サイト

"Political Party of Eastern Europe" Charles Vance, Yongsun Paik

"IN RUSSIA & POLAND BEER LOVERS PARTIES ONCE PARTICIPATED IN PARLIAMENT" VINEPAIR

"Sdružení přátel piva  O sdružení"

 "Scouting for parliament"

"POLITICS : Russia's Beer Drinkers Are Party Animals : A new group hopes to use brew to galvanize embittered citizens into a political force. It has factions for lovers of light, dark, foreign and domestic." LosAngels Times

Strana přátel piva – Wikipedie