現在、注目を集めるビジネスコミュニケーションツールは、3つのグループに分けると特徴を把握しやすい。
より付加価値の高い仕事を誰もができるようにする「働き方改革」。その一環で、注目が集まっているのが、新しいビジネスコミュニケーションツールだ。
脱メールという動きの中で、どのサービスも法人利用が進んでおり、チャットやスレッド形式でのリアルタイムコミュニケーション、ファイルの共有、Botの導入による仕事の自動化・効率化でビジネスのスピードを上げていくことをウリにしている。
そんな特徴をもつサービスの中から、今回は代表格といえる「Slack」「ChatWork」「LINE WORKS」「Workplace」「Hangout Chat」「Microsoft Teams」の6種類に注目した。
ビジネス向けコミュニケーションツールの規模感
各社広報や担当者によると現在の利用者数などの規模感は以下のとおり。各社で公開できる情報や計測方法に違いがあるため、ユーザー数などの数字は参考程度だが、これらのツールが国内でどこまで広まっているかの規模感の目安としてはざっくりとわかるはずだ。
これらのツールの特徴は、「純チャット型」「既存派生型」「スイート統合型」の3カテゴリーに分類できる。
ChatWorkの国内規模は非公開だが、同社広報の「日本:海外の割合は9:1程度」との回答をもとに、編集部独自に試算。
リアルタイムな情報交換でビジネスを加速する「純チャット型」
相手に伝えたいメッセージを、各チャンネルに投稿しコミュニケーションを図る「Slack」。
まず、純チャット型はSlackやChatWorkが分類される。どちらも、そもそも最初からチャットツールとして開発されており、一般的な「ビジネスチャット」の代表的な存在だ。シンプルな基本機能や見た目が特徴だ。
採用企業としては、スタートアップやIT企業の採用例が多いようだが、例えばSlackはパナソニック、三井不動産など、ChatWorkは大日本印刷、東洋アルミニウムなど大企業への導入も進んでいるという。
懸念点を挙げるとすると、あまりにもメールとは違ったコミュニケーション方法になるため、導入直後は、社内教育を丁寧に行う必要がある、ということ。
当然の話だが、上司から部下まで全員でツール移行をしないと、本来のメリットが発揮できない。
プライベート向けの機能とほぼ同じ機能を持つ「既存派生型」
まさにFacebookとほぼ同じ使い勝手を実現する「Workplace」。
次に、既存派生型はLINE WORKSとFacebookのWorkplaceが該当する。これらの特徴はなんといっても、既存サービスのLINEやFacebookに酷似したデザインや機能を持つ点にある。
既にプライベートなコミュニケーション方法でほぼトップシェアを持つ2社ならではのメリットと言え、社内教育も比較的簡単に済むだろう。
各社へのヒアリングによると、採用企業は純チャット型と同様に、現在は社員数100名未満のスタートアップや小規模企業が多い。
一方で、LINE WORKSはRIZAPグループやメガネブランド「Zoff」を運営するインターメスティックなど、またWorkplaceでは米スターバックスなどといった導入例も増えている。大規模なチェーン展開をする企業との相性もいいようだ。
これは、本部側から各店舗への伝達事項、店舗側からの気づきや現場のノウハウが、既存のSNS感覚で双方向で伝わるメリットが評価されているのかもしれない。
新興ながらも既に巨大なユーザー基盤をもつ「スイート統合型」
Microsoft Teamsの使用イメージ。
出典:日本マイクロソフト
最後に、今後膨大なユーザーを抱え込む可能性があるのが、スイート統合型だ(スイート:複数のアプリをセットにしたパッケージのこと)。該当するHangout Chatはグーグルの「G Suite」、Microsoft Teamsはマイクロソフトの「Office 365」のひとつのアプリケーションとして提供されている。
G SuiteもOffice 365もそれぞれ既に多くの大企業や中小企業、スタートアップ企業で利用されている。同じプラットフォーム内のOfficeツールとの相性は当然よく、また契約しているプランによっては追加費用なしで利用できるのがうれしいところだ。
しかし、チャットツールに絞ったときの具体的な活用事例はまだ判然としない部分がある。
Hangout Chatは2018年2月28日に既存のサービスをアップデートする形で開始、Teamsは2017年3月14日に開始。両者共にSlackなどの躍進に触発された形で世に出てきた印象があるが、前述の「すでに多くの企業で使われているスイートの一部」というアドバンテージはかなり大きいと言え、今後の成長が期待される。
単なる“メールの代わり”以上の効果に期待
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今回、「導入先企業が抱えている共通の課題は?」という疑問を、各社の広報やサービス担当者に問い合わせた。
その結果、全サービスの担当者が口を揃えるのが「メールや電話といった既存の手段への課題感」だ。
日本ビジネスメール協会の「ビジネスメール実態調査2018」によると、メールの作成にかかる時間は1日あたり約69分にものぼる。加えて、メールの返信が遅れると回答している人は全体の7割を超えているという。現代のスピード感のなかで、メールがいかに「非効率」なツールとなりつつあるのかがわかる(新しいビジネスマナーとして礼儀2.0を持ち出すまでもなく、「いつもお世話になっております」から始めるコミュニケーションに無駄を感じている人はやっぱり多いのだ)。
また、今後は会議や伝達以外での活用方法にも注目が集まっている。日々の業務の生産性を上げたいというものだ。
例えば、DeNAは社内ワークフローの大部分をSlack上で申請から承認まで行えるようにした。さらに、日常の業務から、同社ビル内のトイレの空き状況をBotにたずねるだけで把握できるようにするなどの一歩踏み込んだ運用も行っている。
これらの開発には、ツールの提供元のサポートや社内SEなどの開発リソースが不可欠だが、より多くの社員が付加価値の高い仕事へ集中できるようになる。
ビジネスツールを単なるチャットツールとして認識し導入するのではなく、業務の効率性や生産性を高めるものとしてぜひ活用してみよう。
(文、撮影・小林優多郎)
・初出時、LINE WORKSの規模感を「国内 10万社以上」と表記しておりましたが、実際は「全世界 1万社以上」の誤りでした。ワークスモバイルジャパン社から訂正があったため、反映します。
・Teamsについて、開始時期を2018年3月14日としておりましたが、正しくは2017年3月14日となります。また、全世界のユーザー数を追加しました。
読者の皆様、ならびに関係各位にお詫びして訂正致します。2018年8月8日 16:30