新たなギャンブルの機会を提供する中国のeスポーツ

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Image credit: dolgachov / 123RF

6月18日の夜、VPGame(威佩)の「League of Legends(英雄連盟)」の試合用チャットルームは盛り上がっていた。対戦するのは両者ともプロの中国 e スポーツチーム、上海を拠点とするFunPlus Phoenix(趣加電子競技倶楽部、FPX)と、杭州を拠点とする LGD Gaming(LGD 電子競技倶楽部)だった。

多くのユーザは LGD Gaming を応援しているようだった。LGD Gaming が最初のゲームを落とした後で「bwesit-yawa」という名前のユーザは「LGD は第1ゲームを捨てただけだから、本気になったLGDを舐めんな」とコメントした。「Gmode」というハンドルネームのユーザは最終ゲームの前に「LGD 頼むからもっと積極的にゴーゴーゴー」と言っていた。

彼らを盛り上がらせているのはゲームの精神ではない。LGD が負ければ、ファンは賭けたお金を失い文句を言うことになる。

多くの人は八百長が仕込まれていると思っている。「9527」というハンドルネームは「このレベルの八百長試合はほんとに凄い」と皮肉っぽく中国語でコメントした。

試合後には「X!!-It’s hard to win」という名前のユーザが「30が220になった、TYTY」と、7倍以上の賭けに勝ったことを「thank you, thank you」の略語である TYTY を使って自慢していた。

負けた者は非常に不機嫌だった。「NEVER GIVE UP」というハンドルネームのユーザは、どちらのチームがゲーム中で最初の5キルをするかという賭けに触れて「負けちまえバカ FPX クソがもう最初の5キルで負けたんだから試合も負ければいいバカ死ね」と書き込んだ。

中国ではeスポーツの規模が大きく、急速にさらに大きく成長している。国営のテレビ放送局  CCTV(中国中央電視台)の報道によれば、2018年には84億8,000万人民元(約1,340億円)だった e スポーツ市場の規模は、2020年までに倍以上に増えて211億人民元(約3,330億円)になるかもしれないとのことである。

同報告によると、この産業は中国で2020年までに50万人という莫大なeスポーツのプロの需要を作り出すとされている。TechNode(動点科技)が最近 PricewaterhouseCoopers から受け取った報告では、2019年の e スポーツ業界は2億1,200万米ドル以上の収益を荒稼ぎすると見られている。

突然出現したこの産業は様々な規模の大会という形でギャンブルの新たな機会も提供しており、現金ではなくデジタル商品で払い戻しされることが多い「予想大会」というグレーな市場を作り出している。

お金を賭ける賭博は、国営の宝くじを除いて中国大陸では違法だ。しかしこういった活動全般が禁止されていても、中国ではいくつかの e スポーツ賭博プラットフォームがまだ運営されており、簡単にアクセスすることができる。

ブックメーカーは通常、e スポーツのニュースやライブストリーミングのサイトを名乗っている。「勝者当てコンテスト」や「予想大会」とされるサービスを行っているこれらのウェブサイトは、中国文化部の認可を受けている。しかしながら法律の専門家は、これらのコンテストの一部は合法的な範囲に収まるが、明らかに違法なものもあると考えている。

デジタルなカジノのチップ

カジノの客は賭けを行う前にチップを買わなければならない。eスポーツではバーチャルチップは様々な形態をとるが、カジノのチップがそうであるように現金と変わらない。

中国で最もよく知られている予想大会ウェブサイトの1つは、ライブストリーミングプラットフォームの Huomao(火猫)である。大手ライブストリーミングプラットフォームと違い、2014年にローンチした Huomao が提供するコンテンツのカテゴリー数は非常に限られたものであり、「Dota 2」「CS:GO」「League of Legends」といった競技ゲームに重点的に注力している。同ウェブサイトの16カテゴリーの中で、6つだけが個別のゲーム用のものであり、そのうち4つはeスポーツだ。それと比較すると、ニューヨークで上場しているライブストリーミングプラットフォームHuyaには、6月18日時点で434のカテゴリーがある。

Huomao ではユーザは現金で「cat bean(猫豆)」トークンを購入し、それを使って賭けることができる。新規ユーザはチップを購入するよう勧められ、交換比率は1人民元に対して1,000となっている。取引は Alipay(支付宝)と WeChat Pay(微信支付)のみで行われ、ユーザが Alipay を選んだ場合は、1度に9万9,999人民元(約158万円)という高額までリチャージすることができる。

その後ユーザは「Dota 2」「CS:GO」「League of Legends」「Honour of Kings」という4タイトルのeスポーツの大会でcat beanを賭けることができる。6月18日、同プラットフォームでは15試合で賭けが行われた。賭けは一般的なスポーツで行われるものと同様のものである。勝つと思われる方が3ゲームビハインドからスタートする、アジアンハンディキャップ付きの勝敗予想。ならびに、1試合の総勝利ゲーム数では、「3回勝負」の試合で総勝利数が2.5を超えるかどうかを予想するものだ。

ユーザは現金ではなく cat bean を稼ぐことができるが、これは購入時と同じ 1,000bean =1人民元のレートで、100人民元(約1,600円)もしくは500人民元(約7,900円)の額のギフトカードに交換することができる。ギフトカードは Tmall(天猫)、JD.com(京東)、Apple Store、NetEase Yanxuan(網易厳選)、ならびに iQiyi(愛奇芸)や Youku(優酷)のメンバーシップカードで使うことができる。また iPad やゲームマウスのような商品と交換することもでき、iPad の価格は 330万 bean となっている。

Huomao(火猫)の店舗ページでは、ユーザは保有するトークンをギフトカードに交換できる。
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同様のギャンブルは他の多数のウェブサイトで見ることができるが、わずかな違いはある。VPGame と xxdianjing(叉叉電競)では、チップはバーチャルな商品を買った際のオマケということになっているが、この商品はオマケのチップを得る以外に使い道がない。その後これらの「無料」のトークンを使って賭ける際、VPGame ではユーザは「V コイン」という最初の購入品にオマケとしてつけられたチップを、「P コイン」という2種類目のものに交換してから賭けを行うよう求められる。xxdianjing では賭けで得たトークンは、ギフトカードや実物の景品、または VPGame 内のゲームのバーチャルなアイテムに交換することができる。

より広く行われているeスポーツ賭博では特殊なチップが使用される。「Dota 2」や「CS:GO」内の高額なコスメティックアイテム、つまり武器やアバターの見た目を変えるために使われる装飾品や「スキン」である。ユーザがこういうアイテムを現金で売ることができる skins.cash というウェブサイトでは、「Dota 2」の「dragonclaw hook」というアイテムは450米ドル以上で売ることができる。

Huomao でもバーチャルなコスメティックアイテムを使って賭けることができるが、こういう賭けで最大のプラットフォームだとされているのは VPGame だ。賭けに参加するためには、ユーザは同ウェブサイトから通常のトークンを使って直接スキンを購入するか、世界最大のデジタルゲーム配信プラットフォーム Steam の自分のアカウントからコスメティックアイテムを預け入れることができる。ユーザは2つのゲームをプレイし、他のプレイヤーと Steam クレジットと交換することでこれらのアイテムを獲得することができる。

コスメティックアイテムは購入か預け入れの際に、希少性に基づいて同ウェブサイトが価格をつけ、その後は普通のトークンと同じように扱われる。VPGame は勝者にバウチャーで報酬を出すが、これは売って普通のトークンにすることもできるし、次の賭けの賭け金として使うこともできる。コスメティックアイテムを自分で持っておきたいユーザや他の場所で売りたいユーザは、Steam のアカウントに戻してもらうこともできる。bean やギフトカードと同様に、スキンを使ってユーザはお金を賭けて、勝てばお金を取り戻すことができるのだ。

VPGame(威佩)の化粧品交換ページ
Image Credit: TechNode

リスキーなビジネス

中国の規制当局は予想大会と賭博との間に区別を設けている。予想大会は時に「試合予測」とも呼ばれ、合法となっている。しかしオンラインでもオフラインでも、賭博や賭博関連のサービスを提供することは、最高で禁固3年の罰を受ける犯罪行為だ。

予想大会には超えてはならない一線が2つあります。

北京の Merits & Tree Law Offices(植德律師事務所)の弁護士 He Jing 氏は TechNode にこう語った。1つは手数料を取ること。もう1つはお金を賭けること、つまり実際にユーザが現金を賭けて勝てば現金が戻ってくるというシステムである。中国では国家体育総局が認可したスポーツくじを除いて、プラットフォームが賭け金として現金を受け取ることは基本的に違法だとされている。

これら2つの一線のため、いくつかのeスポーツ賭博ウェブサイトは非常に不安定なポジションにある。Huomao は賭けの手数料を取っていないので最初のラインは超えていないが、トークンを販売し、ユーザがトークンをギフトカードや実際の景品といった商品に換えることができるようにしているため、2つめのラインは超えていると He 氏は TechNode に語った。

ギフトカードには額面価格があり、非常に容易に現金化できます。同様のことはiPadのような電化製品についても言えます。

現金であっても景品であっても、トークンを使って購入できるという事実は、Huomao はほぼ賭博ウェブサイトに間違いないということです。(He 氏)

xxdianjing や VPGame のように、トークンがバーチャルな商品を購入した際のオマケを装っていても、ユーザは現金でトークンを購入していると言えるとHe氏は述べた。ウェブサイトがそういったトークンを現金化もしくは商品化する選択肢をユーザに与えているならば、それは賭博ウェブサイトと見なされると He 氏は説明した。

しかしながら、コスメティックアイテムを賭けることに特化した VPGame のようなウェブサイトは、まだ現在のところは合法だと He 氏は TechNode に語った。裁判所は賭博法で規制されているものは実体があるものだと一般的に理解しているからだ。いくつかの裁判ではバーチャルなゲームのアイテムが財産的な性質を持つと認められたことがあるが、それらは賭博とは関係のない案件だった。少なくとも今のところは、賭けに勝ったユーザにバーチャルなゲームのアイテムを報酬として出すことは規制の範囲内だと考えられているが、この解釈は変更されうるとHe氏は言う。

He 氏によれば、第三者のトレーディングプラットフォームがそれらのアイテムを高額で買い取っていても、その取引が賭博プラットフォームの手助けなしで当事者同士で行われているということが、プラットフォームを刑罰から守っている。

八百長試合

賭博は出場選手にフェアプレイに反する誘惑を感じさせることもある。アナリストはこれによって業界全体が脅かされるかもしれないと警告している。

2018年4月、中国の大規模なeスポーツ大会である Dota 2 Professional League(DOTA2 職業連賽)で、1部リーグの2チームが八百長のため永久追放され、5名の選手が2年間の大会出場禁止になった。ほんの数日後、同じゲームで第2リーグの2チームも、八百長試合で追放された

台湾、香港、マカオで League of Legends 最大の大会である League of Legends Master Series は4月、自分たち自身の試合で賭博を行ったとして Dragon Gate Team を大会から除外した。League of Legends Development League も、Rogue Warrior Shark(俠盜勇士電子競技倶楽部)というチームの選手4名を八百長のため18ヶ月の出場禁止とする決定を4月に下した。

直近では6月18日、Tencent (騰訊)の League of Legends Pro League(大熱線上遊戲)という中国における同ゲーム最大のリーグは、LGD Gaming のレギュラー選手1名と控え選手2名の八百長関連の行動を明らかにした。レギュラー選手は18ヶ月、控え選手は10ヶ月のリーグへの出場禁止とされた。

賭博がもたらすアンフェアな対戦は試合のクオリティに深刻な影響を与え、それによって業界の収益性にも大きな影響を与えるかもしれず、e スポーツ賭博プラットフォームはそういった致命的な影響を拡大させるかもしれないと、リサーチグループ iiMedia(艾媒)のアナリストLiu Jiehao 氏は TechNode に語った。

アンフェアな大会に未来はありません。

業界レベルで、eスポーツ賭博は競技の質の低下、プロチームへの投資の減少、観客の減少、そして広告の減少といったことにつながるかもしれません。(Liu 氏)

しかしながら、データコンサルタント企業 Analysys(易観)のアナリストLiao Xuhua 氏は、違法であり八百長を引き起こした張本人であっても、e スポーツプラットフォームが黒幕というわけではないと述べる。

eスポーツ賭博プラットフォームはeスポーツ業界の健全な発展の上に成り立つものであり、あまりに大きく傷つけてしまうことは生産的とは逆の行いだと Liao 氏は TechNode に語った。

ブックメーカーが求めるものはフェアな試合や普通の賭博から得られる収益です。

八百長試合で最も損をしているのは e スポーツ賭博プラットフォームなのです。

【via TechNode】 @technodechina

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