遠隔医療、インドで普及 コロナ禍で新興勢躍進
新型コロナウイルス対策で失政が目立つインドで、珍しく大きな成果を上げている例がある。モディ内閣が自国経済に壊滅的打撃を与えた全土の都市封鎖(ロックダウン)を施行した3月25日に、政府医療審議会が発表した遠隔医療に関するガイドラインだ。
それまでインドでは非対面の医療行為についてルールがなく、サービスが合法かどうかがはっきりしなかった。このため、遠隔医療サービスを手掛けるスタートアップはあったが、医師や病院は及び腰だった。
新ガイドラインは規制の対象範囲を明示し。たとえば、人工知能(AI)などによる診察や処方箋発行、遠隔操作のロボットによる外科手術も現時点ではそれぞれ禁止とした。一方、問診や診察、薬の処方箋発行といった外来で一般的な行為については遠隔提供を合法とした。
感染拡大が止まらないなかで政府、医療従事者、患者の全てが遠隔医療を強く望むようになっていたタイミングだっただけに、スタートアップには効果は大きかった。
AIによる診断アシストツールと、大手病院の専門医を組み合わせた専門診療を手掛けるエムファインは、8月末の提携病院数が2月末比約2倍の520、医師数は約3倍の3千人超に増加。8月の1日当たり利用件数は約3倍の約1万件だ。初診から投薬まで完結し、売上高は約10倍になったという。
プライマリケア(1次医療)を得意とするドクスアップは、登録医師数が前年比2倍の1万人超に達した。4月以降、相談件数も同6割増で推移。米セコイア・キャピタルなどが投資するプラクトは5月末時点で1日当たりの相談件数が、3月初頭の6倍に伸びた。
「政府のガイドラインで、遠隔医療業界全体が新規利用者とその信頼を獲得しやすくなった」と、ドクスアップの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のサティシュ・カンナン氏は話す。プラクトとドクスアップはコロナ禍でも数千万ドルの資金調達に成功。エムファインは現在、新たな資金調達を進めているという。
エムファインに投資するベンチャーキャピタル、BEENEXT(シンガポール)の創業パートナー、佐藤輝英氏は「4月以降、インドの医療はオンラインシフトが一気に進んだ。コロナ収束後もヘルスケア系スタートアップの成長は止まらない」とみる。
超高齢化で潜在需要が大きい日本では4月にオンラインでの初診診療が時限的に解禁されたばかりだ。この分野については民間による市場開拓で先行したインドに学ぶことが多そうだ。
(編集委員 小柳建彦)