特集 2020年8月13日

道路を方角ごとに塗り分けると、その街のでき方がわかる

道路の方角は、隣り合う街どうしで微妙に違っていたりする。それが分かりやすいように道を方角によって塗り分けてみたところ、街の地形や歴史が見えて面白かった。

北海道、東京、京都、ニューヨークなどでやってみた。

1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

前の記事:工事現場にあるものの名前をできる限り知りたい

> 個人サイト ツイッター(@mitsuchi)

今回、こんな地図を作った。

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なんのこっちゃと思うが、拡大するとこうなっている。

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道路を、その方角によって塗り分けたものだ。

右側の黄色いエリアは江東区。中央のカラフルなのは銀座とか日本橋だ。街ごとに道の方角が少しづつ違うということが色によってとても分かりやすくなっている。銀座から日本橋まで歩くと少しづつ道がカクッと曲がってるなーという感覚があるが、そういうこともまざまざと示されている。

こんなことできるかなと思ってやってみたらできて、結果も面白かったのでいろんな場所でやってみようというのが今回の趣旨です。

(本記事の地図は OpenStreetMap のデータをもとに加工したものです。末尾にもうちょっと詳しく書きます)

東京の推しポイント

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江東区周辺

まず東京で萌えるのは江東区の道が全域に渡ってほぼ南北や東西ぴったりを向いていることだ。この地図ではそういう道は黄色で塗るようになっているので、江東区は黄色い。

これは江戸時代に小名木川という人工の川をまず東西に引いたからのようだ。つまり千葉方面への水運による都合だ。道が真北ではなく微妙に西に傾いているのは、コンパスの北(磁北)と真北とのずれによるものだろう。

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お城の東と西で格子っぷりが全然違うのもいい。東は低地で真っ平ら、西は山の手で起伏が多いというのも関係ありそうだ。

皇居の南東側(銀座とか)の道の方角は江戸前島というかつての島の尾根に由来するものだろう。その他の場所もいろいろありそうだが、江戸城が見通せる方角に向かって作られたような道もあるそうだ。

札幌

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札幌中心部

札幌はまず中心部を拡大したものを見てほしい。

札幌駅のあたりでは道は真北よりもやや西に傾いている。いっぽう画面下の山鼻と書いたあたりの道は黄色で、ほぼ真北を向いている。ここのずれポイントはちょうど「すすきの」の奥あたりで、道を歩いていると微妙に角度が変わるのだ。萌える。

上のほうで北海道大学だけ角度がずれてるのもいい(なんで斜め?)。

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広域だと、街ごとに道路の方角がみごとに違う。

水色に書いた人工の川である創成川は、札幌の扇状地の傾斜にしたがって作られている(ようだ)。そして中心市街の道路は創成川の向きに合わせて作られている。つまるところ足元の地面がどっちのほうに傾いているかによって、道路の格子の向きが(ここでは)決まったということなのではないだろうか。琴似も似たような事情と思う。

ただ、山鼻と発寒だけどうしてほぼ東西南北ぴったりなのかはよくわからない。微妙に西にずれてるし、コンパスの北に合わせたのだろうか。

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横浜はカオス

サクサクと見ていきたい。つぎは横浜だ。

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広域だと横浜市はカオスだ。つまり格子状の道はほとんどない。でもいわゆる「横浜」だけは格子状なのだ。

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「横浜」と聞いてイメージするあたり

いい感じ。真ん中の格子状になっているのは伊勢佐木町などがある低地で、何本か川が流れていてる。上下のカオスは高台だ。山手とか野毛山のあたり。やはり格子状の道は低地にできやすいと言えるかもしれない。

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さらに拡大するとこう。関内と中華街だ。真ん中で野球場が虹色になっているのがかわいい。道の角度に合わせて色相を回転させているのでこうなる。

中央右で一部だけ黄色になっているのが中華街だ。現地で肉まんを食べ歩くと、ここだけ道の向きが違うのがよく分かる。このズレはかつての新田に由来するようだ。

京都はほぼ東西南北

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なんか京都かっこよくないすか。こういうポスターあったら欲しいかもしれない。

京都の道はほぼ黄色だ。つまり真北や真東にそった道が多い。とはいえ拡大するとそんな道ばかりでもないことが分かる。

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まず上の方で緑や紫になっているのは鴨川の上流にあたる川沿いの道だ。そして全体的に右側の山に近づくにつれてグリッドが破綻しているのが見える。つまり地形は格子を許さないということだろうか。(と思ったけどサンフランシスコがあった)

左端で二条城が一人だけ微妙に東に傾いているのも面白い。これはコンパスの北が、当時の京都ではやや東に傾いていたからということらしい。

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沖縄 波照間島の民俗方位

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沖縄の離島、波照間島では道路の角度がだいたい二種類ある。まず黄色は近年になって作られた畑を反映したもので、東西南北ぴったしだ。

いっぽう島の中央は紫色で、格子は時計回りにやや回転した向きになっている。ちょっと拡大してみよう。

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波照間の中心部

この紫色は家の並びに対応している。

このあたりでは南南西から北北東へ結んだ方角にそって季節ごとに強い風が吹く。そこで風を通すため、あるいは防ぐために集落が風の向きにたいして垂直な方向に作られるのだ。

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当地での方角はこの季節風の向きが基準となっている。これを民俗方位というそうだ。

ニューヨーク

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最後にニューヨークを取り上げよう。ここはあらゆるところが大規模に格子状で、しかもその向きが場所によって違う。まるで札幌のようだ。

この地区ごとの向きの違いはどこから来てるんだろうか。よく分からない。地形なのか。あるいはえいやっと最初に引いた何本かの幹線に沿っているとか。ご存知の方ぜひ。

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セントラルパークのあたりを拡大してみた。中央を縦に走っている緑の線がブロードウェイだ。それが目立つように角度に対する色相をさっきまでとはちょっと変えてある。

ブロードウェイはこの格子ができる前からある道だ。格子との交差点は鋭角になり、そこにものすごい鋭角のビルができたりする。そういうビルとしてはフラットアイアンビルというのが有名のようだ。「ゲームさんぽ」という動画シリーズで覚えました。

地図について

この記事の地図は、OpenStreetMap のデータに基づいて道路を描くプログラム(https://github.com/anvaka/city-roads)をもとに、道路を色付けするよう変更したプログラム(https://github.com/mitsuchi/city-roads)を作成し、描画しました。


まとめ

道路に色を塗ったらとてもきれいになって嬉しい。京都と東京についてはでかい紙に印刷してみたいくらいだ。

ただし場所とスケールを選ぶ。横浜市の例のように、広域でみるとぐちゃぐちゃでよく分からなくなることも多い。

途中で「民俗方位」とか難しいことを言っているが、じつはすべて人から教えてもらったことです。今回の記事では、道路と方角について以下の方に教えていただきました。ありがとうございます。

本田創さん @hondaso 
味噌maxさん @miso_max
地理人さん @chi_ri_jin

とくに波照間の最後の図は本田さんによるものです。ただし記事に間違いがある場合は間違いなくぼくの間違いです。

本が出ました

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街にあるものがだいたい分かる図鑑です

街にある三角コーンとかガードレールとかの違いが分かるようになりたいよねーという「街角図鑑」という記事を以前書いたのですが、それがもとになった2冊目の本が出ました!

今回は鉄塔とか橋とかのちょっと大きめのものもとりあげていますし、道路の話も入っています。ぜひぜひ。

『街角図鑑 街と境界編』三土たつお編著(実業之日本社)

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