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疾風怒濤52手!豊島将之竜王、異例の大乱戦をタイトル戦史上2番目の短手数で制して羽生善治九段に先勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月9日・10日。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において第32期竜王戦七番勝負第1局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦がおこなわれました。

 9日9時に始まった対局は10日16時12分に終局。結果は52手で豊島竜王の勝ちとなりました。豊島竜王は初防衛に向けて、まずは幸先のよい1勝をあげました。

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 竜王戦七番勝負の最短手数記録は1999年第1局▲鈴木大介六段-△藤井猛竜王戦の66手(藤井勝ち)。本局はその記録を更新することになります。

 タイトル戦史上最短手数記録は1994年1月におこなわれた棋聖戦五番勝負第4局▲谷川浩司王将-△羽生善治棋聖(四冠)戦の49手(谷川勝ち)でした。

 第2局は10月22日・23日、愛知県名古屋市「亀岳林 万松寺」でおこなわれます。

どんな展開でもスキなし豊島竜王

 大乱戦から優位に立った豊島竜王。飛車を成り込んで勝勢に立ちました。羽生九段の玉は初期位置から動いていない「居玉」で受けが利きません。

 52手目。豊島竜王は5筋に香を打って王手をかけます。羽生陣は適当な受けもなく、また豊島玉はすぐに寄る形ではありません。

 羽生九段は5分を使いました。そして攻防ともに見込みなしと見て16時12分、深く頭を下げました。

「負けました」

 豊島竜王はまだ投了されるとは思っていなかったのかもしれません。ひざを崩したままでした。すぐに正座に直って、そして一礼を返しました。

 双方居玉のままの終局。そして総手数52手はタイトル戦史上2番目、竜王戦七番勝負では最短の記録となりました。

終局後インタビュー

豊島将之竜王「激しい戦いになって、難しい将棋だったかなと思います。一応、矢倉の出だしになったら、この指し方(△7四歩から△7三桂、△6五桂という早めの桂跳ねからの急戦)を指すつもりでいました。(封じ手前の△2七歩は評判がよかったが)そのあとちょっと、先手の指し方がいろいろあるんで、あまりよくわかってなかったですけど。うーん、ちょっとあそこで叩いておかないと、横に逃げられる変化も気になったので、叩くところなのかなあ、と思ったんですけど。ちょっとそのあとどういうふうに進んでいくかわからなかったです。(封じ手のあたりは)どうなんですかね。いや、難しい順がありそうな気もしたんですけど。ただ、どうやられるかもわからなかったので。ちょっと、形勢がどうなのかわからなかったです。(2日目)昼の休憩のあたりは、手の調子はいいような気もしたんですけど。でもちょっと、具体的にどう指すかは難しいので。ちょっとよくわからないまま、ずっと指してましたけど。(竜王戦七番勝負史上最短手数の勝利に関しては)20手ぐらいで終盤になってるので、けっこう難しい将棋というか。うーん。いろいろ考えないといけない将棋だったと思います。短手数ですけど、難しい将棋だったと思います。2局目から先後が決まってくるので、そうですね、しっかり準備してがんばりたいと思います」

羽生善治九段「うーん、そうですね。なんか駒ぶつかったあとに、いくつか分岐があったと思うんですけど。うーん、そのあたりの選択が、ちょっと問題があったのかもしれないですね。調べてみないとわからないですけど。本譜の順はどうも冴えなかったような気がします。封じ手は・・・歩を取る(▲2七同飛)か桂を取る(▲3三角成)か。けっこう悩んだんですが。ちょっとよくわからなかったですね。その局面はどっちいくか、かなり悩みました。2日目に入って▲6三歩利かしたあと△5二金寄で・・・。うーん、なんか思わしい手がなかったんで。そこはもうちょっとわるいのかもしれないですね。そこで思わしい手がなかったです。(短手数については)かなり最初から決戦になってしまったんで、そういう決着の仕方もあるかな、とは思ってました。(2局目は)また気持ちを新たに、次からがんばっていきたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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