イギリスとEU、新しいブレグジット案に合意と 英下院の承認不透明

ブレグジット離脱協定案に合意したと発表するジョンソン英首相(左)とユンケル欧州委員会委員長(17日、ブリュッセル)
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ブレグジット離脱協定案に合意したと発表するジョンソン英首相(左)とユンケル欧州委員会委員長(17日、ブリュッセル)

イギリス政府と欧州連合(EU)は17日午前、ブレグジット(イギリスのEU離脱)条件を定めた新しい離脱協定案に合意したと明らかにした。新協定の施行には欧州議会と英議会の承認が必要となるが、イギリスでは複数の政党が反対を表明している。英下院は同日、19日に緊急審議を開き、新協定案を採決すると決定した。

ボリス・ジョンソン英首相と欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、ブリュッセルで共同発表に臨んだ。ジョンソン首相は、新協定によってイギリスが北アイルランドも含めて「完全に、かつまとまって」EUを離脱できるし、11月1日以降に欧州との新しい将来を模索していけると強調し、下院議員たちに支持を呼びかけた。ユンケル委員長は、アイルランド島の「平和と安定」を守り「単一市場を守る」、「公平でバランスの取れた」協定だと評価。その上で、「合意できたのは嬉しいが、ブレグジットは残念だ」と述べた。両首脳は記者団の質問は受け付けなかった。

EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は、ジョンソン氏が自分やユンケル委員長に対して、「下院で必要な過半数を説得できると確信している」と述べたことを明らかにした。

英首相官邸筋によると、ジョンソン氏は10月31日の離脱期限延長の要請を拒否するよう、EU加盟各国の政府に呼びかける方針という。ユンケル委員長は記者団に対して、たとえ英下院が19日に協定案を否決したとしても、離脱期限の延長は認めないと言明した。

共同発表に先立ちジョンソン首相は、「決定権を取り戻す素晴らしい新協定をまとめた」とツイートしていた。

しかし、焦点となる北アイルランドの扱いをめぐり、北アイルランドの民主統一党(DUP)は「現状」では支持できないと表明している。ジョンソン首相率いる与党・保守党は下院で単独過半数を得ていないため、2017年以来、保守党に閣外協力しているDUP(10議席)の支持がなければ、政府の協定案が下院を通過するのかは不透明だ。

新しい協定案の大半はテリーザ・メイ前首相がまとめたものと同じ内容だが、北アイルランドの位置づけや北アイルランド議会の「同意権」などが新しくなっている。

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、新協定案はテリーザ・メイ前首相がまとめたものより「さらにひどい」と批判し、下院は「これを拒絶すべきだ」と呼びかけた。

BBCのノーマン・スミス政治副編集長によると、労働党はこの新協定案について、国民投票にかけるのでなければ賛成しない方向で固まりつつある。しかし、ジョンソン首相は国民投票で確実に勝てる見通しがなければ、それに応じないつもりだという。

バックストップは削除

ジョンソン首相が新離脱協定をまとめられるかは、英・北アイルランドとアイルランドの国境の扱いをめぐるいわゆる「バックストップ」条項を廃止できるかどうかにかかっていた。

バックストップとは、イギリスとEUとの間で通商協定がまとまらない場合に、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。バックストップでは、北アイルランドはブレグジット後もEU単一市場のルールに従うことになり、イギリスがこの取り決めから離脱するにはEUの同意を必要とした。そのためジョンソン氏を含む反対派は、EU離脱後もイギリスがなおEU法に縛られることになると、強く反発していた。

それだけに、このバックストップ条項を削除することで、ジョンソン氏は保守党内の離脱派やDUPの支持をとりつけようとしていた。

協定合意を明らかにしたジョンソン氏はツイッターで、「非民主的なバックストップは廃止した。北アイルランドの人たちは自分たちの暮らしのよりどころとなる法律を自分たちで決めるし、バックストップと異なり、北アイルランドの人たちは自分たちがそう望むなら、特別な取り決めを終わらせることができる。 #ブレグジットを実現しよう #決定権を取り戻そう」と書いた。

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新協定の要点は

バルニエ首席交渉官はブリュッセルで記者会見に臨み協定合意を発表し、新協定の4つの要点を説明した。

  • 北アイルランドは今後も、物品に関するものを中心に、一部のEU規則の対象となる
  • 北アイルランドはイギリスの関税地域に留まるが、EU単一市場への「入り口であり続ける」
  • 単一市場の一体性を維持しつつ、付加価値税(VAT)に関するイギリスの正当な要望に応える
  • 北アイルランドの代表は4年ごとに、EU規則を北アイルランドに適用し続けるかどうかを決定できる

(4)については、親英派とアイルランド派の双方の過半数ではなく、北アイルランド議会の単純過半数で決定する。

さらに、EU単一市場に入るモノへの関税は、EUとイギリスの合同委員会が選別したものについて、イギリスがEUに代行してEU関税を徴収する。

バルニエ氏は記者会見で、北アイルランド議会に決定権を与えることが「新しい合意の土台」になったと話した。さらに、新協定は「まず誰よりも市民に対して」、ブレグジットのあらゆる側面について「法的確実性」をもたらすはずだと説明した。

一方で、バックストップは削除されたものの、北アイルランドがイギリスの他地域と別の扱いを受けることには変わらないと、DUPなどから懸念の声が出ている。

新協定案では、以前の協定案と同様に――、

  • イギリスは少なくとも2020年末までEUの規則に従い、企業に対応のための猶予を与える
  • イギリスは推定390億ポンドの「手切れ金」をEUに支払う
  • イギリス国内に住むEU加盟国の国民、ならびにEU圏内に住むイギリス国民の権利は保障される

支持と反発

ブレグジット強硬派の中心的存在で下院院内総務のジェイコブ・リース=モグ氏は、「今日は英政治にとって本当にワクワクする日」だと述べ、「非民主的なバックストップを削除し、この国がひとつの関税地域であり続けることを保証する」「この素晴らしい協定をこぞって支持するよう」下院議員に呼びかけた。

リース=モグ氏はさらにジョンソン首相について、「3年かけてできなかったこと、85日で達成した」とたたえた。

一方で、ブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首は、下院はこの新協定案を否決すべきだと述べた。

ファラージ氏はBBCに対して、「ともかくこれはブレグジットじゃない。もしこれに合意してしまうと、そのあとまたさらに何年もEUと交渉し続けることになる(中略)イギリスは今後も自分たちの法律を自分たちで決められなくなる」などと不満をあらわにした。

EU残留を支持する野党・自由民主党のジョー・スウィンソン党首は、協定案は「この国の経済にとって良くない、この国の公共サービスにとって良くない、私たちの環境にとって良くない」と反発し、「ブレグジット阻止の戦いはまだまだ終わっていない」と強調した。

「これから数日の間に、この国の今後数十年にわたる方向性が決まる。私は今まで以上に、ブレグジットを阻止すると断固たる思いだ」と、スウィンソン氏は述べた。

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