お役立ちコラム

BtoBマーケティングとは?成功に導く4つの実践計画と代表施策を解説

競争がより激しくなる現代の市場において、法人相手の営業活動においてもマーケティングの考え方を取り入れた戦略的なアプローチ(=BtoBマーケティング)が重要になっています。

しかしいざBtoBマーケティングに取り組もうと考えても、

  • BtoBマーケティングは複雑でわかりにくそう
  • 「マーケティング」について調べても、消費者向け(BtoC)の話ばかりで参考にならない
  • 調べた範囲でやってみたが成果になったのかわからない

このようなことに悩まされている担当者は多いのではないでしょうか。

実はBtoBマーケティングにおいてもその本質はシンプルです。ここ数年ではBtoBマーケティングの研究も進んでおり、成功のパターンも確立されつつあります。こうした「確立されたノウハウ」を上手く学び活用することができれば、ある程度の成果を上げることは難しくないでしょう。

しかし一般に広まっているBtoBマーケティングの解説では多くの場合、「組織体制づくり」という重要な観点が抜け落ちています。
マーケティングとは「売れる仕組みを作ること」です。一時的に成果を出せてもそれは「仕組み」とはいえません。
「誰が担当しても“良質な購買体験”を顧客に提供できるようにする」
「営業やマーケのみならず、関係する全ての部門で一貫した信頼を顧客に与えられるようにする」
そうした組織体制づくりがBtoBマーケティングの取り組みから本当の成果を得るためには大切です。

本記事では「これからBtoBマーケティングを本格的に始めたい」「手探りで行っているBtoBマーケティングを成果を出せるように見直したい」と考えている営業・マーケティングの担当者に向けて、BtoBマーケティングの概要を丁寧に解説しています。基本的な考え方と大きな流れ各ステップで取り組むべき事項そして成功に向けたポイントをまとめました。
前身の会社から20年以上にわたってさまざまな企業様のマーケティング支援を行ってきたアジタスの持つノウハウを、正に結集した記事となっています。

例え今の時点で安定した業績を残せている企業であっても、これからますます大きく変化する時代において生き残るためにはマーケティングの力が必要です。この記事をぜひお役立てください。

目次

1.BtoBマーケティングとはなにか

1-1.BtoBマーケティングとは「BtoB市場向けに体系化・最適化されたマーケティングの技術やノウハウ」のこと

BtoBマーケティングとは文字通り「BtoB市場向けのマーケティング」です。より正確には「BtoB市場向けに体系化・最適化されたマーケティングの技術やノウハウ」と言えるでしょう。

対象が法人相手(BtoB)であれ個人消費者相手(BtoC)であれ、実は「マーケティング」そのものの原理や原則に違いはありません。「顧客を創造すること」「売れる仕組みを作ること」など表現はさまざまですが、いずれも「自分たちの提供価値と市場のニーズを結びつけ、さらにつながりを最大化させること」を目指しています。
しかし具体的な考え方や手法のレベルでは市場の特性の違いに起因して大きな差異が出てきます。したがって自分たちの参戦している市場(BtoB市場)の特性を正しく理解し、それに合わせた有効な戦略・手法を取れるかがBtoBマーケティングを成功させる鍵となるのです。

▼BtoB市場とBtoC市場の違い
BtoB BtoC
想定顧客 企業 個人消費者
購入者と利用者 違う 同じ
意思決定の仕組み 複数の人が組織的に関わって協議する 個人が自分だけの意思で決める
目的 課題解決・投資 所有・体験・課題解決
判断基準 経済合理性 情緒性・納得感
検討期間 長い 短い
購買単価 高い(数万円~数億円) 安い(数百円~数十万円)
乗り換えの手間 大きい・困難 小さい・容易
考慮すべき要素 多い・複雑 少ない・単純

BtoB市場の特性や効果的なマーケティング施策の研究は近年大幅に進んでおり、ノウハウとして体系化されています。企業が取り組む「BtoBマーケティング」は、そうしたノウハウを適切に学び自社の活動に応用していくことだと言えるでしょう。

1-2.最終的に最重要になるのは社内の組織体制づくり

体系化されたノウハウを学ぶことで「基本的なマーケティング戦略の検討」や「効果的な施策の実施」は、どのような企業でもある程度のレベルで実践できるようになってきました。
しかしそれらの取り組みをほんとうの意味で定着させ、会社としてのレベルアップを果たすために重要なのが「組織体制づくり」です。

マーケティングは「売れる仕組みを作ること」とも定義されます。仕組み、つまり極力属人性を取り除き、再現性のある形で継続的に「自然と売れ続ける」状態を達成することが最終目標です。
個人的にBtoBマーケティングに詳しい担当者が営業やマーケターがいて、自身の関わる業務の中でそのノウハウを活用すれば売上を伸ばすことは可能です。しかしそれはあくまで一時的なものに過ぎず、その担当者が異動・退職すれば失われてしまいます。
また基本的には経済合理性や論理性が重視されるBtoBでの購買検討においても、最終的な決断には情緒面つまり「企業として信頼できるかどうか」が大きな影響を与えます。この企業としての信頼を生み出すのが「コミュニケーションの一貫性」であり、そのためには一個人やその回りだけでなく、会社組織全体として顧客との関わり方を定めていかなければなりません。

長期的に成長を続け成功する企業はいずれも「売れる仕組み」を構築しています。アジタスはこの事実を知っているからこそ、具体的な施策や戦術以上に「成果を上げ続けられる組織づくり」への支援を重視しています。

2.BtoBマーケティング実践の3つのプロセス

2-1.「現状把握→計画策定→施策実践」がBtoBマーケの基本の流れ

BtoBマーケティングは大きく次の3つのステップで進行します。

▼BtoBマーケティングの基本の流れ
  • プロセス1:現状の調査と分析
  • プロセス2:課題の特定と計画の策定
  • プロセス3:個別施策の企画・実行・効果検証

まずは「プロセス1:現状の調査と分析」で自分たちの現状を把握します。立ち位置を正確に見定めることでとるべき方策は自然と絞られてきます。

次に「プロセス2:課題の特定と計画の策定」では明らかになった現状を踏まえてあるべき状態(ゴール)にたどり着くための道筋を具体的に描きます。進むべき方向を定めたとしても、実際の道行きには多くの障害(課題)があります。さまざまな兼ね合いの中から最も効率的・効果的に課題をクリアし、ゴールにたどり着ける「実践のための行動計画」を打ち立てます。

やるべきことが定まったら「プロセス3:個別施策の企画・実行・効果検証」での実践です。ビジネスの現場では「見込み違い」や「予想外の成功」にあふれています。決められたことをただやるのではなく、最高の成果を出せるように常に改善を重ね続けることが重要です。

2-2.PDCAを繰り返しながら精度を高め、成果を伸ばす

このようにBtoBマーケティングの基本の流れは非常にシンプルです。「現状把握→戦略と計画の策定→実践」の流れを繰り返し、精度を高めながら「売れる仕組み」を作り上げていきます。
やるべきことがシンプルだからこそ、各工程をいかに無駄なく丁寧に行えるかが成果を分けます。次章からは各プロセスの詳細について解説します。

3.プロセス1:現状の調査と分析

「プロセス1:現状の調査と分析」では自社内外の現状を正確に把握し直すための調査を行います。自社の現在地を正しく認識できていなければ、せっかくの戦略や施策企画も的はずれなものになってしまいます。
大掛かりな戦略転換を行わなくとも、正しい現状認識に基づいて施策の細部を調整するだけで成果が大きく改善するケースも珍しくないため、侮らずに丁寧に行うことが重要となる工程です。
本章では特に重要な「自社」「市場・顧客」「競合」の3要素に対して行う基本的な調査や分析の内容を解説します。

3-1.「自社」「市場・顧客」「競合」を正確に理解する

むやみに動き出すよりも、まずは自分たちの現状を正しく把握することが重要です。目指すべき理想との間にあるギャップを正確に理解することで、それを埋めるための最短距離の道筋が見えてきます。

3C分析:競争環境を整理するフレームワーク

現状把握は「3C」のフレームワークにそって行うのがオススメです。「自社」「市場・顧客」「競合」という競争環境の主要要素全てに目を配れるため、効果的に現状把握を行えます。

▼3Cのイメージ

4P分析:自社・競合のマーケティング・ミックスを整理するフレームワーク

また「自社」「競合」を分析する具体的な観点としては「4P」のフレームワークが役に立ちます。中でも「製品(Product)」「販売促進(Promotion)」には会社ごとの戦略の違いが出やすいため、比較できるように調査を行うと良いでしょう。

▼4Pのイメージ

【参考記事】現役BtoBマーケターが厳選!現場で本当に役立つフレームワーク10選

3-2.「市場・顧客の現状」を調査する

「市場・顧客(Customers)」の調査では、市場の規模や成長性といった定量要素はもちろん、ニーズや購買特性について調べていきます。
「ニーズ」や「購買特性」に関しては、長く経験のある人ほど「思い込み」を持ってしまっていることも多いので、ゼロベースで見直すことが必要です。

アジタスでは「キーワード調査」「ユーザーインタビュー」「ペルソナシート&カスタマージャーニーマップ作成」などの手法を用いて市場・顧客の深層に迫ります。

調査名 概要
キーワード調査 関連するキーワードの内容と検索ボリュームを分析し、ユーザーにどのような関心や情報ニーズ(知りたいと思っていること)があるかを把握する。
ユーザーインタビュー 実際のユーザー(顧客)にインタビューを行い、ニーズや購買特性、自社にどのような魅力を感じているかを把握する。
ペルソナシート&カスタマージャーニーマップ作成 現在の顧客が顧客となるに至った典型的な流れを整理し、振る舞いの特徴を把握する。

3-3.「自社の現状」を調査する

「自社(Company)」の調査では、売上や利益率、市場シェアといった定量的な要素から、製品そのもの、あるいは業務プロセスのような目に見えないものまで含めて特徴を改めて調べていきます。
特に「業務プロセスの特徴」は内部にいると当たり前すぎてその特徴がかえってわからなくなってしまうこともあります。競合他社との比較を通じて相対的・客観的な自社の立ち位置を明らかにしていきましょう。
また「業務プロセスの特徴」は部門間の連携の度合いの評価にも役立ちます。部門同士で顧客の情報が適切に受け渡されているか、全社としてどのようなサービス体験をユーザーに提供できているかを「ユーザーインタビュー」の結果とも照らし合わせながら把握しましょう。

アジタスではBtoBマーケティングで重要になるWebの領域において、「アクセス分析」「プロモーション調査」「コンテンツ調査」などを通じて「自社がWebをどれくらい活用できているか」を特定します。

調査名 概要
サイトアクセス分析 サイトアクセスのログ(記録)を分析し、訪問しているユーザーの属性やサイト内での行動特性を把握する。
コンテンツ調査 現状のサイトに掲載されているコンテンツをリストアップし、数や種類・内容を分析する。サイトの目的に適したコンテンツ構成になっているかを把握する。
プロモーション調査 Web広告などの実施状況と結果を分析し、どれくらい活用できているかを把握する。
社内インタビュー調査 現在の営業マーケティング業務の流れをインタビューやヒアリングシートを通じて把握する。

3-4.「競合の現状」を調査する

「競合(Competitor)」の調査での調査項目は「自社(Company)」とほぼ共通です。同じ市場で競い合うプレイヤー同士として比較できるように調べていきます。
競合調査では入手できるのは公開情報のみとなります。限られた情報から背景の意図や戦略を探り出せるのが理想ですが、「事実・根拠のある推測」と「調査者の主観的な思い込み」を混同しないように注意しましょう。

調査名 概要
競合サービス調査 競合のサービス内容を分析し、自社サービスとの内容の差異やターゲットとしているであろうセグメントの違いを把握する。
競合コンテンツ調査 現状のサイトに掲載されているコンテンツをリストアップし、数や種類・内容を分析する。コンテンツ発信におけるターゲットや戦略を類推する。
競合プロモーション調査 Web広告などの実施状況をできる限りリストアップし、数や種類・内容を分析する。販売促進におけるターゲットや戦略を類推する。

3-5.まとめ:足元をしっかり見つめ直して「次の一歩」を正しく踏み出す

「現状の調査と分析」とはいっても、全てを明らかにしようと張り切りすぎる必要はありません。あくまでプロセス2以降の方向性を見極める準備段階として、一通りのことを押さえられれば十分です。

良くないのは事実を無視し、思い込みで進んで物事を進めてしまうことです。平常心を保ち、事実から確実に言えることだけを積み上げていくように心がけましょう。

4.プロセス2:課題の特定と計画の策定

現状の分析を終えたら、「プロセス2:課題の特定と計画の策定」に取り組みます。スタート(現状)とゴール(理想)の間には無数の道が存在するため、どの道をどのように進むのか、自分たちが重視するものと照らし合わせながら最適な道を探ります。
本章ではBtoBマーケティングにおける戦略検討の考え方具体的な4種の実践計画について解説します。

4-1.取り組むべき課題は何かを特定し、どのように取り組むかの計画を定める

プロセス2ではプロセス1で整理した現状を踏まえ、事業として望ましい状態(=ビジョン)に辿り着くためにどのような戦略で取り組むのか・戦略の実現にはどのような課題があるのか・課題をクリアするためにどのような計画で行動するのかを検討します。

戦略の決定:どの山に登るか・山頂までどのルートで登っていくか

まずは戦略を定めます。特に現代のBtoBマーケティングでは、「Webやデジタルテクノロジーを利用してどのような戦略が可能になるのか」「課題の解消にWebやデジタルテクノロジーをどのように活用できるのか」を問うことが重要です。

▼BtoBマーケティング戦略の主な検討ポイント
  • Web利用して開拓できそうな新たな市場はあるか
  • 既存事業をスケールするためにWebでできる施策はなにか
  • その市場における競争力の源泉をWebで築くことはできないか

課題の特定:ルートにはどのような難所があるか・そのために何を準備しなければならないか

戦略を決めたとして、すぐにそれを実現できるわけではありません。何かをやろうとするときにはそれを妨げる様々な要因(=課題)がつきものです。クリアすべき課題はなにかを洗い出します。よくある課題としては次のようなものがあります。

▼BtoBマーケティングにおけるよくある課題
  • 今の自社サイトは内容が貧弱すぎて、とてもWeb施策には活用できない
  • Webサイトを運用したり、問い合わせ増などの具体的な成果を出すためのノウハウを持った人材が社内にいない
  • 営業部門とマーケ部門の連携が取れておらず、Webからの問い合わせを案件に繋げられていない

計画の策定:どのようにルートを登っていくか

どこを目指すべきかの指針である戦略とその道中にあるであろう課題が整理されたならば、課題を解消して戦略を実際のものにするための具体的な実践計画をいよいよ策定していきます。
アジタスではBtoBマーケティングの実践計画を「接触」「表現」「態度変容」「関係維持」の4系統で検討します。次節からは各計画の詳細について解説します。

▼BtoBマーケティングにおける4つの実践計画
  1. 接触計画=ターゲット層との接触の数と質を最大化させる
  2. 表現計画=一貫したサービス体験を提供し、自社やブランドへの信頼を醸成する
  3. 態度変容計画=購買に向けた見込み客の態度変容を促し、スムーズな購入・成約に導く
  4. 関係維持計画=既存顧客との関係を維持・強化し、中長期的な利益(LTV)を最大化させる

4-2.接触計画を策定する

接触計画とは、主に商談化・案件化前の見込み客を対象に接触の数と質を最大化させるための実践計画です。

売上は基本的には市場に存在する見込み客の数に比例します。しかし「市場に存在する潜在的な見込み客」の全てが「自社にとっての良い見込み客」となるわけではありません。
市場全体の中には「ターゲット・セグメントに該当する相手」と「そうでない相手」がいます。また該当する相手の中でも、「実際に接触可能な相手」と「そうでない相手」がいます。厳密な意味で自社の見込み客と言えるのはこの「ターゲット・セグメントに該当し、実際に接触も可能な相手」のみなのです。

限られたリソースでより多くの見込み客と接触しつつ、なおかつその中の「本当の見込み客」の割合を高めるためには、計画的なアプローチが必要になります。接触計画では市場特性に合わせたチャネル(接触経路)の選択・誘導経路の設計・リソース投下の配分などを検討します。

▼接触計画での主な検討ポイント
  • 既存の営業マーケチャネルとどのように共存させるか
  • 顧客の課題認知をどのように促すか
  • 接触数を最大化するための投下リソースはなにか

▼接触計画のイメージ

 

4-3.表現計画を策定する

表現計画とは、サービスのパッケージやWebサイト、あるいは営業資料や各種広告に至るまで、顧客に発信するクリエイティブ全般の実践計画です。ブランディング計画と言い換えることもできます。
BtoB顧客の購買行動は論理性や経済合理性に基づくのが前提ですが、最終的な成約を勝ち取るためには同等以上に情緒面への訴求も必要になります。特に重要なのが「企業全体への信頼感・ブランド」であり、そのためには顧客と接する全てのコミュニケーションを通じた「一貫性」の演出が重要です。

各施策におけるそれぞれの表現にはどのような機能をもたせるべきか、接点のチャネルやメディアをどのように組み合わせて理想のブランドイメージを構築していくかなど包括的な視野を持って計画を組み立てます。

▼表現計画での主な検討ポイント
  • 各表現にはどのような機能が必要か
  • あるべきコンテンツはどのようなものか
  • ブランド体験をどのようなメディアミックスで実現するか

▼表現計画のイメージ

4-4.態度変容計画を策定する

態度変容計画とは、購買検討のさまざまな段階にある見込み顧客に対してどのような働きかけ(アプローチ)を行って次の段階へ誘導していくかの実践計画です。

目的が「課題解決」であるBtoB見込み顧客の購買に対する意欲や真剣さは、なにもないところから急に跳ね上がることはなく、通常複数の段階を経て徐々に高まっていきます。

▼マーケティングファネルのイメージ

従来のBtoB営業では営業自身が見込み顧客に積極的に接触して働きかけることで、能動的にプロセスを進めようとしていました。しかしBtoBマーケティングでは想定される顧客の一連の振る舞い(=カスタマージャーニー)を見極め、ジャーニーの要所に「その時に必要とされるであろう情報・コンテンツ」を配置することで、自然とプロセスを進展させるように考えます。そうなると態度変容計画の設計こそが「売れる仕組みづくり」の中核の一つです。

態度変容が発生するのは「新たな知識や気付きを得て、状況認識が更新されたとき」です。したがって態度変容計画ではそれぞれのプロセスにいる見込み顧客の知識レベルを見極めながら、どのようなタイミングでどのような情報を届けるかを検討します。

▼態度変容計画での主な検討ポイント
  • 知識レベルをどのようにコントロールするか
  • 動機づけをどのように行うか
  • 態度変容促進のための接触は顧客のどのようなタイミングが望ましいか

▼態度変容計画のイメージ

4-5.関係維持計画を策定する

関係維持計画とは、接触した顧客との繋がりを維持あるいは強化し、LTV(ライフタイムバリュー;顧客生涯価値)を最大化するための実施計画です。広義では「初めて接触を持ってから初回受注まで」も含みますが、今回は「初回受注以降の関係維持」を中心に解説します。

一般的にBtoBの取引は乗り換えコストが大きく、一度取引が始まると継続しやすいです。とはいえ、顧客があなたの会社との取引から得られる利益が充分でないと判断するならば、「論理的・合理的に考えて」より良い条件を提示する競合へとあっさり乗り換えてしまうでしょう。
また自社から見ても、初回の相手は競争に勝つために顧客に有利な(≒自社の利益率を抑えた)条件で取引をすることが多いはずです。その条件や取引量のままで継続したとしても、利益は伸びにくくなってしまいます。
同じ相手と継続して取引が発生するBtoBだからこそ、受注後の関係を維持・強化し、Win-Winの関係を築くことが重要です。 

従来、この領域は顧客担当となる営業個人の裁量に負っていました。しかしBtoBマーケティングの考え方では、この部分も組織として計画的にアプローチしていきます。
顧客の中に眠る課題を掘り起こすためにどのように必要な詳細情報を獲得していったり、あるいはそうした相談を持ちかけてもらえるだけの信頼を勝ち取ったりしていくか。Webなどの複数のチャネルを利用した計画を検討します。

▼関係維持計画での主な検討ポイント
  • 実現には何を行えばよいか
  • アップセル・クロスセル・ファン化を促すための施策は何か
  • “個客化”(=「あなただけに向けたサービス提供」を可能にする体制)をどのように実現する

▼関係維持計画のイメージ

4-6.まとめ:道は無数にあるからこそ「どの道をどのように進むか」が大事

目指すべきビジョンを定めたとして、そのビジョン(山頂)へ到達できるルートは無数にあります。だからこそ社内外の環境を踏まえた「どの道をどのように進むか」の選択が成功の可能性を大きく左右します。リーダーの経験とセンスが最も試される場面であるとも言えるでしょう。

もちろんビジネスの道に「正解」はありません。どんな選択であれ、「選んだ結果を正解にする」のがビジネスパーソンとしてのあるべき姿と言えるでしょう。
しかし「先人が切り開いて整備してきた道」「もっとも試行錯誤が少なくて済む最短距離の道」ならばあります。経営において常識や理屈にとらわれない飛躍も時には必要ですが、顧客の側も論理性・合理性を重視するBtoBマーケティングにおいては「いかに確度の高い選択を地道に積み重ねていけるか」こそが成功の基本です。
無駄な遠回りを避けられるよう、計画をしっかり練ってから実践に取りかかるようにしましょう。

5.プロセス3:個別施策の企画・実行・効果検証

いよいよ実際に道を進み始めるのが「プロセス3:個別施策の企画・実行・効果検証」です。計画した個々の施策を具体的に企画・実行しながら、自社のマーケティングの環境を少しずつ変えていきます。ビジネスは必ずしも事前の計画通りに進んでくれるものでもないため、常に効果検証を行って道取りを微調整しながら進んで行きます。
本章ではBtoBマーケティングの代表的な施策の概要について解説します。

▼BtoBマーケティングの代表的な施策と実施計画との対応
接触計画 表現計画 態度変容計画 関係維持計画
施策例①サービスサイトのリニューアル
施策例②オウンドメディアの立ち上げ
施策例③MAツールの導入
施策例④営業のワークフロー・体制の整備

【参考記事】BtoB領域の担当者が押さえておくべきマーケティング手法23選
【参考記事】BtoB企業が自社に合った広告を選ぶために知るべき9つの手法【比較表付き】

5-1.施策例①サービスサイトのリニューアル

サービスサイトのリニューアル・強化はBtoBマーケティングにおける最も中心的な施策の一つです。サイトによる情報発信を強化し、ニーズや課題を持った見込み客が事前にある程度の下調べを行った上で「自ら問い合わせを行う」道筋を作ります。
サービス紹介ページを中心に検索流入から問い合わせの獲得を目指すのが本線ですが、それ以外でもWeb広告からの誘導先としてであったり、お役立ち資料(ホワイトペーパー)やセミナーアーカイブの保管場所としても役立ちます。

きちんとした制作会社・支援会社によるサイトリニューアルでは、制作そのものと同じくらい事前調査と施策戦略の設計を重視します。サイトリニューアルには数百万円以上の費用がかかります。見切り発車ではそんな多額の投資があっという間に無駄になってしまうからです。
名目としては「サイト制作」であったとしても、その中に自然と「現状の調査と分析」や「課題の特定と計画の策定」へのサポートが含まれます。これからBtoBマーケティングに本気で取り組む覚悟があり予算を確保できるならば、最初に取り組むことを強く勧めたい施策です。

▼サイトリニューアル施策の基本の流れ
  1. Webマーケティング戦略の確認とサイト施策の目的の整理
  2. ユーザーペルソナおよびカスタマージャーニーの作成
  3. サイトマップの検討
  4. サイト制作・掲載コンテンツ制作
  5. サイト運用体制の整備
  6. サイトの運用と改善

5-2.施策例②オウンドメディアの立ち上げ

特に情報発信力を強化したい場合には、メディアサイト(オウンドメディア)の立ち上げも有力な施策です。有用な情報を発信して自然検索などからアクセスを集め、メルマガ登録・会員登録へ誘導して将来的な見込み客のリード情報を獲得します。
また情報発信を通じて潜在層の知識レベルを深めて課題に気づかせたり、マインドシェアを高めて相談先としての信頼を高めるといった役割も担います。
さらに業界内でも多くのユーザーを集められるようなメディアに育てば、閲覧状況から現在のトレンドを把握したりそのレポートを独自のコンテンツとして発表したりといったことも可能です。

現代のBtoBマーケティングでは「見込み客の早期囲い込み」が非常に重要となっています。情報が発信されるチャネル(メディアサイト、ソーシャルメディア、動画サイトなどなど)も多様化しており、情報を受け取る側としてはそれらを横断的に確認できる場所があるのは便利です。
課題が顕在化する前からの接点を作れ、将来的にも大きなリターンを期待できるオウンドメディアの立ち上げ・運用は、BtoBマーケティングをより大規模にしていきたい段階の企業にオススメの施策です。

▼オウンドメディア施策が効果的となる基本の条件
  • 「受け皿」となるサービスサイトがすでに整備されている
  • 潜在的な見込み客を幅広く集めることが有効なビジネスモデルである
  • 発信できるコンテンツやそのネタがすでに多くある、または今後コンテンツ作り続けられる見通しがある

5-3.施策例③MAツールの導入

MA(マーケティング・オートメーション)ツールの導入は業務の効率化と品質標準化に非常に役立つ施策です。
関係の維持・強化には「適切なタイミングで適切な情報を届ける」が鍵となります。従来は担当営業がマニュアルで個人として対応していた仕事ですが、担当する全ての見込み客の状態を一人で管理しつづけるには限界があります。そのため営業は「重点対応顧客」を絞り込み、それ以外の確度が薄そうな見込み客へは積極的な後追いをせずメリハリをつけることでバランスをとっていました。

MAツールは「行動実績に基づく見込み客のスコアリング(案件化確度の評価)」「特定のトリガーからの対応(メールなどの送信、対応営業に対する通知)」を自動化してくれます。スコアリングの基準が標準化され、さらに「サイトコンテンツの閲覧状況」などの定量データも利用して精度も上がります。
なにより特定条件を満たした見込み客への定型対応を自動で処理してくれるため、営業が「確度の高い見込み客への個別の対応」に集中できるようになります。

MAツールの効果的な運用には「カスタマージャーニーが確立していること」「コンテンツが豊富にあること」など、いくつかのハードルがあります。そのためいきなり「MAツール導入ありき」でBtoBマーケティングに取り組むことはオススメできません。
しかしMAツールによる自動化を確立できれば「売れる仕組みづくり」に大きく近づくため、いずれは検討してもらいたい施策です。

▼MAツールを効果的に運用するための事前チェックポイント
  • 主要顧客層のカスタマージャーニーは確立しているか?
  • 自社サイトに十分なアクセスが集まっているか?
  • シナリオのタイミングごとに適切なものを出し分けられるくらいコンテンツのストックはあるか?
  • あるいはコンテンツを作り続けられる体制はあるか?

5-4.施策例④営業のワークフロー・体制の整備

Webでのコミュニケーションが増えてきているとはいえ、法人取引の詰めの交渉はやはり営業と先方担当者と対面(Web通話含む)で行うのが一般的です。営業部門の仕事のやり方(ワークフロー)や体制を新しい戦略に沿った形に整備することは、BtoBマーケティング成功に向けて非常に重要な施策となります。

まずは「Webサイトから発生した問い合わせに誰がどのように対応するか」のフローを定めるのが第一です。従来のチャネルとは案件の背景も確度も大きく異なるので、営業側にもそれに合わせた対応が求められます。気が利いた営業ならばアドリブで上手く連携できることもありますが、「売れる仕組み」として再現性を高めるためには、やはりフローや体制として固めることが必要です。
またBtoBマーケティングではマーケと営業(フィールドセールス)をつなぐ「インサイドセールス」の設置が検討されることがあります。マーケ施策・Web施策で獲得した見込み客の見極めと育成を行い、営業に確度の高い見込み案件を送って全体の活動効率を高められる有効な手ですが、ポジションを新設して機能させるには全体的な体制の見直しが必要です。
さらに新たな体制におけるワークフローが確立したならば、それをさらに定着・強化するためにSFA(セールスフォース・オートメーション)ツールを導入する場合もあります。こちらも運用体制の確立とセットで行わなければ、費用に見合った効果は得られません。

「BtoBマーケティング」という文言から「マーケティング部門のみが関わる話」だという誤解は非常に多いですが、最終的な売上増に結びつけるために必須といえる施策です。

▼営業のワークフロー・体制で具体的に整備する主なポイント
  • Webサイト経由問い合わせを営業チームの誰がどのように対応するかの取り決め
  • インサイドセールスチームを発足させるかどうか・発足させる場合はマーケチーム・フィールドセールスチームとの役割分担をどう整理するか
  • 営業活動の情報を蓄積して分析可能にするためのSFAの導入と運用
  • サービスサイトでの説明と一貫した商談スクリプトと商談で用いる基本資料の作成

【参考記事】BtoB営業で成果を上げるために実践してほしい15のポイント

5-5.まとめ:PDCAをどこよりも早く回し、自社だけの必勝戦術を確立する

施策の実行段階で重要なのは「やりっぱなしにしないこと」「施策一つひとつに対して効果検証を行い素早くかつ丁寧に行い、結果から教訓を得ること」です。
BtoBマーケティングには成功のセオリーが確かに存在しますが、それでも自社のビジネスモデルや市場の特性によって本当に効果的な戦略・戦術は異なってきます。最終的にはあらゆる施策からの学びを積み重ねて「自社だけの必勝法」を磨き上げていくほかありません。

マーケティングに優れた企業はとにかく多くの施策を試し、成功したものからも失敗したものからも最大限の教訓を得て次の施策の企画に役立てています。計画をしっかり作れていれば「大失敗」はそうそう起こりません。恐れず多くのチャレンジを積み重ねていってください。

6.BtoBマーケティングを成功させるための3つのポイント

本記事ではここまでBtoBマーケティングの具体的な進め方を解説してきました。
しかしこれらはあくまで基本の流れであり、ビジネスの現場ではその時々の状況に応じで自分自身で決断しなければならない場面に直面します。
そんなときでも取り組みをより正しい方向に進められるよう、この章では「BtoBマーケティングを成功させるための3つのポイント」をまとめました。

▼BtoBマーケティングを成功させるための3つのポイント
  1. あくまでも「顧客起点」を貫く
  2. 「全社的な組織改革・業務改革」だという長期的な展望と覚悟を持つ
  3. 自分たちだけでやることにこだわらない

6-1. あくまでも「顧客起点」を貫く

BtoBに限らずマーケティングの大原則として心に刻んでもらいたいのが「顧客起点を貫く」ということです。
マーケティングのゴール(理想形)は「売れる仕組みを作ること=顧客に求められ続ける状態を作ること」です。その起点はあくまで顧客側の課題やニーズにあり、「自分たちが売りたいものを売る」というわけでは決してありません。そのためには自分たちの顧客の実態を誰よりも詳しく理解することが重要です。

BtoBマーケティングでサイト施策やMAツール活用が重視されるのは、それがデータを通じて顧客のことを今まで以上に正しく理解することに役立つからです。マーケティングに優れた企業は、主観的・定性的ではなく客観的・定量的なデータを元に分析することで顧客自身が気づいていなかった潜在ニーズを探り出し、それを解決する価値を提供しようとしています。
またデジタルテクノロジーの活用を重視するのも、営業やマーケターを煩雑な事務作業から解放し、直接的・間接的に顧客と向き合う時間を増やすためです。

売上などの短期目標に追われるとどうしても疎かにしがちですが、それでは中長期的に成長し続ける土台を作ることはできません。どこまでも「顧客起点」のマインドを持ち続けるようにしましょう。

6-2.「全社的な組織改革・業務改革」だという長期的な展望と覚悟を持つ

繰り返し触れてきているように、BtoBマーケティングで重要なのは「全社的な一貫性」「それを実現できる組織体制づくり」です。
営業部門とマーケティング部門が連携するのはもちろんのこと、広報やカスタマーサポートあるいは経理や法務といったバックオフィスであっても「顧客と接する可能性のある部門」として同じ戦略・同じ価値観をもって動けることが理想です。

とはいえ、ここまでのことを営業・マーケティング部門の責任者レベルの権限で一気に行っていくのは非常に難しいでしょう。経営レベル・役員レベルで味方を作り巻き込んでいきつつ、長期のプロジェクトとして焦らずじっくり取り組んでいくことが必要です。
既存サイトの小規模改修やリスティング広告出稿などのごく小さなところからのスタートであっても、その先に目指しているビジョンを忘れないようにしましょう。リーダーの視線が低ければ、付き従うメンバーが見られる範囲はそれ以上に狭くなり、効果も損なわれてしまいます。

6-3.自分たちだけでやることにこだわらない

組織改革を含めBtoBマーケティングで「やらなければならないこと」は非常に幅広く、同時に施策を最適化させるための「やれること(選択肢)」も多いです。初心者はまずその情報量に圧倒されてしまうことでしょう。
長期のプロジェクトとして軌道に乗せるためにも「まずは短期でわかりやすい成果を出す」を目指したいところです。試行錯誤の手間を減らすためにマーケティング支援会社の利用は積極的に検討してみても良いでしょう。

事業会社が真に磨くべきは「市場や顧客に対するより深い理解」と「製品・サービスを通じたより良い価値の提供」です。それに比べればこの記事で解説してきたBtoBマーケティングのあれこれは「目的に辿り着くまでの手段」に過ぎません。
マーケティング支援会社の費用は決して安くはありませんが、お金でショートカットできる部分と時間をかけて自分たちで積み上げていかなければならない部分とを良く考えて、自社にとってベストな方策は何か検討してみてください。

【参考記事】必要なのは包括支援!BtoBマーケティングを成功させるコンサル会社の選び方

まとめ

この記事ではこれからマーケティングを強化したいと考えている企業の営業またはマーケティング担当の方に向けて、BtoBマーケティングの概要を解説しました。

BtoBマーケティングとは「BtoB市場向けに体系化・最適化されたマーケティングの技術やノウハウ」のことです。法人相手(BtoB)ならではの事情を考慮しながら「売れる仕組みを作ること」がゴールとなります。
以前はあまり注目されておらず各社が手探りで行わなければならなかった分野ですが、近年では研究やノウハウの公開も進んでおり、学ぶことは容易になっています。
しかし重要なのはノウハウを自社の状況に適合させて運用することであり、さらに「組織体制の変革」につなげて定着させることです。
自分たちだけでは難しいと感じたらマーケティング支援会社の活用も視野に入れましょう。
個別施策だけでなく全体的な戦略や組織づくりにも知見をもつ「包括支援型」の支援会社ら中長期的な成長のパートナーとなるはずです。

経済環境が厳しく競争も激しい現在だからこそ、マーケティングのノウハウは業績の改善やさらなる成長にきっと役に立つはずです。ぜひ活用してください。

中島慧一

中島慧一 経営企画・マーケティングコンサルタント

大学で建築、大学院でコミュニケーションを学んだ後、2017年にアジタスに入社。自社のマーケティングおよびお客様のマーケティング支援を担当し、展示会においてはしばしばセミナー講師を務める。企画面ではホワイトペーパーを活用したソリューションの提案が得意。 マーケティング活動を「企業と市場のコミュニケーション」だと考え、企業の持つポテンシャルを市場に正しく届けていくために日々奮闘している。

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