フランスで「MOCHI」ブーム 日本の「餅」とは微妙に違う…ザンネンな点も

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 パリっ子たちの間で最近「MOCHI」が流行っています。日本語の「もち」なのですが、日本人が思う「お餅」とは、ちょっと違います。【ヴェイサードゆうこ/在仏ジャーナリスト】

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 今フランスで流行っているMOCHIとは、和菓子の「求肥」を使用したスイーツのことなのです(「もち」ではなく「もし」と発音するフランス人が多いのですが)。カルフールなどの大手スーパーなどでは中にクリームやごまあんなどが入ったMOCHIも見かけますが、こちらで一般的なのは「MOCHI glacé(モチグラッセ)」という、求肥でアイスクリームを包んだ「もちアイス」です(以降、本稿ではこれを「MOCHI」と呼びます)。

 日本でいう「雪見だいふく」のミニサイズを思い浮かべていただくと分かりやすいでしょうか。MOCHIは、パリのカフェやサロン ド テ(ドリンクを楽しむのが前者、食事も出るのが後者という使い分けがあります)、パン屋、日本食材店で見かけるほか、日本にも進出している大手冷凍食品メーカー「PICARD(ピカール)」もオリジナル商品を販売し始め、街頭広告なども見かけるようになりました。

 PICARDのサイトを見ると、「おいしい!」、「驚きの味と食感。また食べたい」、「甘すぎなくていい」、「新感覚で家族でハマった」といった、肯定的なコメントが多く見受けられます。ただ、1口サイズのアイスが6個入り5.6ユーロ(約767円)で、値段に関しては「高い」というコメントが多いようです。

 インスタグラムで検索すると、実に多彩なMOCHIが紹介されています。バニラやマンゴー、ライチ、パッションフルーツからピスタチオ、黒ゴマ、桜、さらに7色のレインボーやラム酒、ウイスキーなどアルコールを入れたMOCHIなど、数えきれないほどの種類があり、日本のもちアイス以上の豊富なラインアップに驚かされます。

 さらにパティシエ大国のためか、はたまたMOCHIの価格が高いせいか、ネット上では「もちアイスのレシピ」も多く見られます。YouTubeでは「もちアイスをつくってみた」動画が100万再生近くされるほか、関連の人気動画も沢山あります。さらには通販でMOCHIづくりキットが購入できたり、MOCHIづくりのワークショップも開催されているのです。

フランスの和菓子事情を変えた一本の映画

 特に昨年頃からMOCHIを頻繁に見かけるようになり、パリにある日本のパンや食品をあつかう飲食店でもMOCHIの売り場面積が広がってきているのを感じていました。近所に住む中学生の子が「今日は友達とMOCHIを食べに行くの」と教えてくれたり、求人サイトで「人気のスイーツ『MOCHI』を作る会社でスタッフ募集」という広告を見かけたり、お寿司屋さんのwebサイトに「お待たせしました!MOCHIが入荷されました!」と告知しているのを見かけたり……。本当にMOCHIを食べているフランス人が増えているのだなぁと不思議な感覚でした。

 私がフランスで初めてMOCHIを見かけたのは5年くらい前のこと。アジア人が経営する寿司レストランやラーメン屋のデザートとしてMOCHIのPOP広告がテーブルに置いてありました。当時、雪見だいふくの半分以下、ピノより一回り大きいくらいのサイズで1個2ユーロ(約270円)は高いと思った記憶があります。

 それまでMOCHIということばをフランスで聞くことはなく、これもフランスで受け入れられるとは思えませんでした。というのも、日本の「和菓子」はフランスで市民権を得ていなかったのです。

 10年以上前になりますが、私が日本からのお土産としてお団子やお饅頭をフランス人に渡したとき、あんこを「豆を甘くしたペースト」と説明したら驚いたような怪訝な顔をされました。ふにゃっとしたやわらかい食感に子ども達は顔をしかめていました。知人は、「フランス人の同僚が、求肥の和菓子を『きもちわるい』と目の前でごみ箱に捨てた」と嘆いていました。さすがにそれは滅多にないことではありますが、フランス人にとって和菓子はなんとなく得体のしれないものと映っているようでした。保守的な嗜好の人や高齢世代は今でも似たような反応をするかもしれません。

 風向きが変わったきっかけは、2015年にカンヌ映画祭で「あん」という映画が上映されたことでした。樹木希林さん演じる元ハンセン病患者の老女が、どら焼き屋の粒あんづくりを通して周囲と関わり、生きるということに向き合うストーリーです。フランスでは「Les Délices de Tokyo(レ デリス ド トーキョー、東京の甘いもの)」というタイトルになっていました。ドリアン助川さんの原作小説がAmazonでベストセラー入りするなど人気を博し、2016年に全国上映されると、外国映画としては異例の動員数30万人を超えるという大ヒットを記録したのです。

 映画の中では、あずきを洗い、声をかけながら丁寧に炊き上げ、おいしい粒あんでどら焼きをつくっていく過程が美しく描写されていました。記録的ヒットにともなって「どら焼きを食べたい」、「どら焼きはどこで買えるのか」という声がフランスで出てきたのです。これを受けパリのオペラ地区などにあるサロン ド テやパン屋がどら焼きを売り出すようになりました(私も映画を鑑賞後にどら焼きを食べに行きました)。当時フランス人は「味はともかく、どら焼きだのあんこだのとはどんなもの?」という好奇心で求めた人が多い印象でした。やはり「甘く煮詰めた豆を食べるの」と驚きつつも、この映画から“あずきのコンフィチュール”ともいわれるあんこが認知され、和菓子そのものが広まるようになった感があります。

 ただ、誤解をされないようにお伝えすると、日本の老舗和菓子屋「虎屋」は1980年代にパリにオープンしていましたし、以前記事でも紹介したパリ郊外にある日本人経営の「山下農園」のレストランでは20年位前からデザートにMOCHIを提供していたそうです(デイリー新潮配信『パリ郊外で農園経営25年の山下朝史さん 値段10倍の野菜を高級レストランが求める理由』)。もしかして山下農園のレストランに行ったフランス人からMOCHIが広まったのでしょうか……。また2012年に出版された「Asafumi Yamashita : Maraîcher 3 étoiles」には、今流行っているMOCHIのレシピも掲載されているのです。どちらにしても和菓子がフランス人に浸透していたわけではなく、和菓子やMOCHIを知る人はごく少数でした。

 ついでに日本製菓の話をしますと、おかきやおせんべいはBarでお酒に沿えて出されるつまみとしてよく見かけます。フランス人が大好きなアペロ(夕食の前に食前酒を飲む習慣)でワサビ味の衣をまとった豆菓子「wasabi」を口にしたことがあるフランス人は多いはずです。

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