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医師3900人に聞いた「電話・オンライン診療を実施しましたか?」
非対面診療の9割が電話、経験した医師の感想は
「途中でキャンセル」など、対面ではあり得ないトラブルも

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け、時限的に解禁された電話やオンライン機器による診療。『日経メディカル』本誌6月号では、オンライン診療を導入した医療機関の声や運用上の工夫、遠隔診療ツールの入院医療への応用などを特集している。

 これに先立ち、日経メディカル Onlineでは、医師会員3900人を対象に2020年5月14日~21日にかけてウェブアンケートを実施した。その結果によると、今年に入って46.0%の医師が視覚情報のない電話による診療を経験しており、汎用テレビ電話や専用のオンライン診療システムを用いた医師は6.7%、対面診療しかしていない医師は47.3%だった(図1)。半数の医師が何らかのデバイスを用いて非対面診療を経験しており、そのうち87.3%が電話を用いていることになる。

図1 今年に入って電話・オンライン診療を経験しましたか?
(汎用テレビ電話と電話を併用している人は「汎用テレビ電話」に、オンライン診療システムと汎用テレビ電話もしくは電話を併用している人は「オンライン診療システム」にカウントした)

 電話や情報通信機器による診療では、聴診や触診などを行う対面診療と比べて得られる情報が少ないため、特に初診に関しては「医学的に満足な診療ができない」という声が医師の間でも根強い(参考記事:オンライン初診解禁、参入に悩む医師のホンネ)。電話やオンライン診療システムなどを用いて行った診療内容について、複数回答で聞いたところ、電話のみを使用した医師の82.9%が「通院中の外来患者の再診で継続処方」を行っていた(図2)。再診でも「処方薬の調整を伴うもの」になると35.6%に急減し、「通院中の外来患者の新規疾患の診療」は10.0%、「来院歴がある患者の初診」は6.1%、「来院歴のない初診患者」は5.0%と、診療の際に様々な情報が必要な状況にであるほど対応している割合が低下した。

図2 電話でどんな診療をしましたか?(複数回答)

 一方、電話と比べて視覚情報が増える「汎用テレビ電話・オンライン診療システム」を使用している医師では、初診に対応している割合が上昇し、「来院歴のない初診患者」でも19.8%が対応していた(図3)。再診(継続処方)を行っている割合が電話と比べて小さいのは、COVID-19疑い患者など感染予防の必要性が高い患者が来院する「発熱外来」でのみテレビ電話を用いて診療を行った医療機関があるからだとみられる。なお、COVID-19の流行前から可能だった平時のオンライン診療は、リアルタイムの視覚情報を伴うビデオ通話システムを用いることが必須で、視覚情報のない電話ではできない。汎用テレビ電話・オンライン診療システムを使っている医師のうち、11.5%が平時のオンライン診療を行っていた。

図3 テレビ電話でどんな診療をしましたか?(複数回答)

自費徴収額は500円前後が相場か

 今回、時限措置として解禁された電話・オンライン診療では、療養の給付と直接関係ないサービス等の費用として「社会通念上妥当適切な額の実費」を患者から自費で徴収できる。これは、厚労省が2018年7月10日に発出した事務連絡にある、平時のオンライン診療で徴収できる「システム利用料」(予約や受診などでかかるシステム利用費)とは異なる扱いだ。

 この費用を徴収する際は、「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」に基づいて、サービス内容や料金の院内掲示や、患者からの同意書の取得など、一定の手続きが求められる。

 調査で、この自費分をいくら徴収しているか聞いたところ、電話のみを利用している医師では「徴収していない」という医師が82.2%(1460人)と圧倒的に多かった。一方、汎用テレビ電話を利用している医師では「徴収していない」が46.0%(69人)で、徴収額として最も多い価格帯が「301~600円」18.7%(28人)だった。オンライン診療システムを利用している医師は「徴収していない」が26.6%(29人)とさらに少なくなり、「301円~600円」が20.2%(22人)、「601円~900円」が14.7%(16人)などだった。1500円以上徴収しているという医師も13.8%(15人)いた(図4)。

図4 患者から徴収している自費の費用はいくらですか?

 本調査において、「平時のオンライン診療を行っていた」と答えた医師は30人(図3参照)で、これは外来や在宅で診療をしている医師(3900人)の0.8%に過ぎない。つまり、多くの医師が今年に入って非対面の診療を経験したことになる。電話・オンライン診療に関する意見を募ったところ、院内感染をできるだけ防ぐ観点から新規ツールの導入に前向きな声もあった一方、電話・オンライン診療を行うことで発生する手間や、対面診療より低く設定されている診療報酬への不満、得られる情報が限られることへの不安などの声もあった。以下に、調査の自由記述欄に寄せられた意見を紹介する。

電話・オンライン診療に対する意見

【テレビ電話で診療した】
今回、対面診療のかなりの部分がオンライン診療に置き換えられることが患者も行政も分かったと思う。テレビ電話を用いたオンライン診療の経験がないのに、否定的な感情を抱いている医者は多いが、これは時代の流れだと思う。(40歳代開業医、糖尿病科)

院内感染防止には有用だった。ただ、「電話診療」と「テレビ電話によるオンライン診療」が同じ扱いで語られているのは、医学的におかしい。オンライン診療は今後起こる災害や感染症流行の際にも、今回のように時限的な適用拡大が行われるべきで、高齢や在宅療養中のかかりつけ患者の急性増悪にすぐに対応できない場合にも有用だと考える。(40歳代開業医、一般内科)

オンライン診療でも十分なケースが多く、将来的にスタンダードになっていくと思った。(40歳代病院勤務医、脳神経内科)

先日、初診患者から色々と相談された後に「やっぱりキャンセルで」と通話を切られた。対面ではあり得ないことが起こる。(40歳代開業医、耳鼻咽喉科)

診療報酬が低く設定されており、収益上のメリットがないので、普及はしないのではないか。(50歳代病院勤務医、消化器外科)

診療は可能だったが、それよりも予約や処方箋の扱い、料金の請求、入金確認などの事務量が急増した。(50歳代開業医、一般内科)

【電話で診療した】
状態が安定している患者は、1回であれば電話で対応可能だと分かった。しかし、次は対面で診療したい。(30歳代病院勤務医、小児科)

いつもの患者に対して鎮痛薬や湿布、骨粗鬆症薬などを処方するなら、電話
で十分。(50歳代病院勤務医、整形外科)

電話診療をしながら、カルテを入力するのは至難の業だ。(40歳代病院勤務医、循環器内科)

対面診療の途中に電話がかかり、診療が中断されて煩わしかった。電話診療のみの外来と、対面の外来を分けてほしい。(40歳代病院勤務医、脳神経内科)

非常に安定している患者であれば問題ないが、病態が崩れやすい患者の「変わりない」という言葉を電話越しに信じてよいのか、不安になった。(30歳代病院勤務医、循環器内科)

精神科の場合、対面より電話の方が、患者がヒートアップする可能性が高いので非常にやりづらい。 (30歳代病院勤務医、精神科)

【対面診療しかしていない】
電話・オンライン診療は、得られる情報が少なく、対面診療よりも過誤の可能性が高くなる。今回は緊急避難的措置で解禁されているようだが、過誤発生時の責任の所在について曖昧なため、リスクは負えない。また、なりすまし受診や未収金の発生など、解決すべき問題が多すぎる。(40歳代診療所勤務医、皮膚科)

電話・オンライン診療は病院上層部の方針で導入していない。生活習慣病の場合、受診を控えられるよりはオンライン診療でもいいからフォローして行動変容を促した方がよいと思っている。(30歳代病院勤務医、脳神経内科)

今後、同じような感染症パンデミックが起こった場合には、オンライン診療を導入したいと考えている。(40歳代診療所勤務医、総合診療科)

地方の病院で患者が高齢者中心なので、オンライン診療のニーズを感じていない。(50歳代病院勤務医、一般内科)

脳神経内科の診察は、筋強剛を見たり、腱反射を取ったり、とにかく体に触らないと話にならない。認知症患者はそもそもオンライン機器が使えない。(50歳代病院勤務医、脳神経内科)

診察で得られる情報が少ないことで、患者が訴える通りに処方してしまい、不適切な投薬が増えてしまうと思われるため、今、政府や経済界が主導している積極的なオンライン診療の推進には反対である。(20歳代病院勤務医、一般内科)

調査概要 日経メディカル Online医師会員を対象にウェブアンケートを実施。期間は2020年5月14日~21日で、有効回答者数は4583人。そのうち外来・在宅医療を行っている3900人を抽出した。内訳は、病院勤務医70.8%、開業医15.1%、診療所勤務医13.4%など。集計対象者の内訳は、20歳代3.9%、30歳代17.1%、40歳代23.6%、50歳代32.9%、60歳代19.9%、70歳代2.4%、80歳以上0.3%。

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連載の紹介

シリーズ◎オンライン診療・遠隔医療
新型コロナウイルス感染症などの影響で、規制緩和が進んだオンライン診療。テレビ電話を用いた診療のほか、専門医とかかりつけ医とをネット上でつなぐ遠隔医療、最新の5G技術を用いた遠隔手術などの最新情報をお届けします。

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