「ブルーバックス×現代新書×東京大学」コラボ企画、復活!
東京大学教授2人が、3人の編集者の出す「お題」をもとにエッセイを書き下ろしました。今回の特別編のお題は、オスカー作品でもある「寄生虫」。私たちの「進化」の原動力に迫る力作です!
「寄生」が席巻する2020年
2020年2月9日、ポン・ジュノ監督の《パラサイト 半地下の家族》が第92回アカデミー賞の作品賞、監督賞など4部門を受賞した。
その前年にはカンヌ国際映画祭でパルム・ドールをすでに受賞していたので下馬評は高かったが、英語以外の映画のアカデミー作品賞は初めてとのこと。すばらしいの一言である。
ぼくはその1週間前、2月2日に見たのだが、そのときは新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) はまださほど猛威をふるっていなかった。中国武漢市が大変なことになっていることは報じられていたが、日本国内では1月中旬からポツポツと散発的に感染者が出ていたぐらいで、仕事も各種イベントもほとんど通常モードだった。
今、この原稿を書いているのは2020年3月15日。それからたったの1ヵ月半足らずで、ヨーロッパやアメリカ大陸にまで感染は広がり、世界中が大混乱に陥ってしまっている。小松左京の『復活の日』もあわや、というパンデミック状況が現出してしまった。
映画の《パラサイト》は、もちろん感染症パニック映画ではなくて、経済格差が拡大する韓国の現状を舞台背景に、貧困にあえぐ家族が富裕層の一家に家庭教師や家政婦となって「寄生」する様子を描いたブラックユーモアだ。
しかし、「寄生」という点では、ある病原体が宿主にとりつく感染症も、ある社会階層が別の社会階層にとりつくのも、「他者(宿主)が保有している資源を、自分はほとんどコストを払わずに横取りする」という点では同じである。映画とCOVID-19が同期したのは偶然だが、象徴的ではある。
さて、他者の資源の横取りという点では、逆の関係も想定できる。
つまり、富裕層が貧困層の富や労働力に寄生しているという関係である。もう少し正確に言えば、貧困層の富や労働力に寄生することで富裕層たりえているとも言える。
実際、《パラサイト》で主人公一家が富裕層の家庭に入り込めたのは──「寄生」できたのは──、この金持ち一家が家庭内の仕事をほとんどしないからだ。子供の教育やしつけは家庭教師任せ、料理・掃除などの家事は家政婦に、車の運転は運転手に、といった具合である。
つまり、富裕家族は貧困家族の労働力に寄生することで、生活を成り立たせている。
映画のタイトルは、いろいろな意味が込められていそうだ。
マクロ寄生とミクロ寄生
壮大なスケールで「世界史」を記述してきたカナダ生まれの歴史学者ウィリアム・マクニールは、支配階層が被支配階層の食料生産や労働力を搾取する構造を一種の寄生関係であると見て、「マクロ寄生」という概念を提唱し、統治権力の衰亡をマクロ寄生システムの機能という観点から説明した。
これは同じ国家内の階層や階級や人種の間にも適用できし、国家どうしや民族どうしの間にも適用できる便利な概念だ。