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わが社はこうやってテレワークしています【Google編】

~10万人以上の社員がいるGoogleはどうやってテレワークをしているのか

リモートワークで作業を行なっている画面

 世界各国に170カ所以上のオフィスを展開し、10万人以上の社員が勤務するGoogle。グローバルで高い成長を遂げてきた同社にとって、ビデオ会議システムなどのコラボレーションツールは、従来から欠かせないものとなっている。

 Google社内では、多くの拠点を結んだコミュニケーションが活発に行なわれ、効果的なコラボレーションを実践。「従来から、会議の約4割は、異なる場所にいる社員がビデオ会議に参加する形で実施しており、同僚が物理的に同じスペースにいない状況で働くことは、それほど珍しいことではなかった」とする。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、在宅勤務の移行にも、業務を滞らせることなく、柔軟に対応してきた同社だが、その取り組み方は、多くの企業にとって参考になるものばかりだ。短期集中連載「わが社はこうやってテレワークしています」の第9回目として、Googleのテレワークへの取り組みを紹介する。

メールやチャット、ビデオ会議のツールをフル活用

 時間や物理的な距離に捉われることなく、社員が働くことができる環境を整えていたGoogleは、テレワークの先進事例として捉えることができる。

 たとえば、全世界150カ国で600万社以上が有料で利用しているG Suiteは、もともとはGoogle の社内コラボレーションを加速するインフラとして開発されたものであり、社員はこれを日常的に使用している。

 メールやチャット、ビデオ会議などのツールを使い分けながらコミュニケーションを取っているほか、複数での編集が可能なGoogleドキュメントやスプレッドシートといったツールを用い、円滑な資料作成や情報共有を行なっている。

Google Meetを使用して社内コミュニケーションを行なっている

 これらのツールは、PC やモバイル端末でもスムーズに利用でき、社員それぞれの環境にあった柔軟な働き方を実現しているのが特徴だ。

 また、2014年からは、ネットワークセキュリティの改革に取り組み、「BeyondCorp」の仕組みを導入。これにより、PCやタブレット、スマホといった多様なデバイスの利用や、増加するオフィス以外の場所からのアクセス、それに伴うシステムの保護などの観点から、インフラ整備が完了していた。

 こうした環境が整備されていたため、原則在宅勤務という状況になっても、社員は自然にテレワークの環境に移行。慌てて環境を整備するというような事態にはまったく陥らなかった。むしろ、追加の投資は、よりよい環境で勤務を行なうためだけに行なわれたといえるだろう。

 「セミナーを主催することが多いマーケティングチームでは、自宅からセミナーをオンラインで行えるキットを新たに用意した例があった。司会者と登壇者は、自宅にマイクや照明を用意し、PCとスマートフォンを駆使して、Google MeetやYouTube ライブを活用して、配信を行なっている。参加者からは、画質や音質のクオリティには不足なく、チャット欄で気軽に質疑応答ができた点などが高く評価されている」という。

Google社員の1日

 では、Googleの社員は、在宅勤務において、どんな1日を送っているのだろうか。

 Google Cloudのある営業担当者の場合、午前9時から午後6時までを勤務時間と設定。海外拠点との会議や、顧客との打ち合せの時間などによって、勤務時間の調整を行なっているという。

 「従来は、お客様への訪問とオフィスでの勤務の割合が半々だったが、在宅勤務の広がりとともに、リモートによるテレビ会議での商談が浸透。3月中旬以降は、お客様への訪問や、オフィスへの通勤は一度もない」という。

 1日3~4件の営業提案および国内外のチームとのビデオ会議、資料作成を行なうが、そのすべてがテレワークによって行なわれている。

社員と顧客とのオンラインでの会議の様子

 社員全員がGoogleカレンダーの予定を公開しているので、お互いにスケジュールを参照しあいながら会議の日程を調整している。3人以上の会議など、日程調整に手間取る場合には、搭載されているAI機能を利用して、自動的に日程を調整している。

 公開カレンダーは便利な反面、時間が空いているとスケジュールが埋められてしまうことがあるため、予定をブロックしたり、ランチや家族との時間をカレンダーに入れたりといった工夫をしている社員が多い。「お互いの仕事の負荷やプライベートを尊重した予定調整を行なっている」という。

Googleカレンダーに入力されたスケジュールの様子

 社員同士のコミュニケーションには、メールよりもチャットの方が多く利用されており、電話よりもビデオ会議が多く利用されている。これによって、よりタイムリーで、親密なコミュニケーションを可能にしている。

 「チームのチャットルームや、プロジェクトごとのチャットルームがあり、質問をすると誰かが答えてくれたり、場合によってはすぐにビデオ会議を開いて、支援をしてもらったりと、離れていてもチームの一体感を感じながら仕事が進められる」と社員からは好評だ。また、ビデオ会議システムのGoogle Meetでは、「お客様に、URLを開いてもらうだけで、インストール作業などがなく、ブラウザからビデオ会議に参加できるため、双方にとってスムーズ。海外のチームとのビデオ会議では、英語字幕がリアルタイムで出るので、発言の内容が理解しやすい」といった声があがる。

 さらに、「資料作成は1人で行なっていると行き詰まることが多いが、 Google Drive上に社内共有されている既存資料を検索したり、全社で活用可能なリソースを参照しながら、同僚とリアルタイムに同時編集し、新たな提案資料を作成するといったことも行なっている」という。

 作成中の資料は、Google Driveのリンクとして共有し、バージョン管理をすることなく、スムーズな作業分担ができるという。また、「〇〇の資料を探している」といった問い合わせにも、リンク1つで資料をシェアできる簡便性もメリットだ。

 「1日の業務のなかで、紙は1枚も存在しない」という環境も実現している。

社内コミュニケーションを重視

 一方で、在宅勤務ならではの工夫も行なっている。

 家族と夕食を取ったあとは、メールのチェックなどを行なう一方で、同僚と仕事と関係ない話で盛り上がったりもする。また、残業をしない日を設定することで、仕事と家とのメリハリをつけるようにしている。

リモートワークを行なっている社員の自宅の様子

 さらに、取引先の企業文化や取引関係に配慮して、メールの送信が夜遅くなるときは、Gmailの送信時間を設定できる機能を使って、翌朝にメールが送られるように予約してから就寝することもある。

 社員それぞれの在宅勤務の環境にあわせたり、家族との時間と仕事のバランスを取ったり、あるいは打ち合わせの数が増えているといった状況に対処するために、いままで以上に時間管理に気をつかう場面が増えているのも確かだ。同社では、Googleカレンダーのデフォルトのミーティング時間を30分から15分に変更したり、会議のアジェンダを事前に明確にするなど、より効率的に会議を行なう工夫を行なっている。

 Googleには、社内コミュニケーションを重視する企業文化がある。

 同社は、2019年10月に、東京・渋谷の渋谷ストリームに本社を移転したが、新たなオフィスでも、社員同士の会話が生まれやすい環境を作ったり、緊密なコミュニケーションを行える工夫が随所に凝らされている。

 廊下でのちょっとした立ち話や、同じ空間でのコミュニケーションが、イノベーションを生むこともある。社員間のコラボレーションの促進は重要であり、オンライン上でも、そのような場を作り出す努力をしている。

オンラインでも社内コミュニケーションが活性化している

 Google の調査によると、チームの生産性には、心理的安全性や互いに対する信頼感が大きく影響することが分かっており、同社では、チームメンバーがお互いにスムーズに協力できる環境の構築が重要だと考えている。そして、社員が在宅勤務に移行しても、社員同士のつながりを維持し、組織全体にわたってコミュニティと企業文化の構築が重要であるとする。

 それを実現する具体的な取り組みとして、部署を横断して“ゆるく”雑談できるチャットルームを設置したり、社員同士でビテオ会議を通じて誕生日を祝ったりといった仕組みのほか、多くの社員が知りたい情報を、Googleサイトで整理したり、企業向けのソリューションとして提供しているGoogle+を活用して、他愛のない会話が続く工夫もしている。

そのほか、社員自らが得意とするスキルや知識を、同僚に教える「g2g(Googler-to-Googler)」という取り組みもオンラインに展開。「g2g “教室”」として、パン焼きやケーキづくり、瞑想のセッション、フィットネスのためのブートキャンプ、クラフト教室など、幅広いテーマで開催している。「学びを重視する企業文化をベースとして、社員が互いのつながりを維持し、知識をオープンに共有する環境を構築している」という。

 また、互いに面識のない社員同士がつながるために、Google Meetを使い、コーヒーとともにおしゃべりを楽しむ「Virtual Coffee Ninja」プログラムを新たに開始。これも社員同士のコミュニケーションの活性化につながっている。

 在宅勤務の長期化によって、Googleが重視していることが、もう1つある。

 それは、在宅期間中の社員のメンタルヘルスである。

 現在、同社では、社員によるボランティアで運営しているメンタルヘルス支援グループ「Blue Dot」が、Google Meetを利用しながら、話し相手を必要としている社員の求めに応じて、対話をする環境を作っているという。

 Blue Dotは、健康なメンタルヘルスの促進によって、社員の生活を改善することを目的に組織化されたもので、「共感力を持った聞き手」としてのトレーニングを受けたボランティア社員によって構成されているのが特徴だ。理由を問わず、なにかを聞いて欲しいと思う社員がいる場合にも、話し相手になってくれる。

 「これだけ長期化した在宅勤務は誰も経験がない。そして、この変化への対応は必ずしも簡単ではない。調査では、職場から離れることや、孤独であること、人とのコミュニケーションがないことなどに不安を抱く傾向が示されている。こうした点にも十分配慮することが大切である。むしろ、通常の枠を超えた取り組みが必要だと感じている」とする。

 在宅勤務によって、なにか話したい、なにかを聞いてほしいという状況が生まれる場合も増えるだろう。Blue Dotは、そうした社員をケアする仕組みとして活用されている。

 さらに、在宅勤務におけるベストプラクティスを、ブログでシェアするといったことも行なわれている。

 ここには数多くの具体例が掲載されているというが、今回の取材では、そのなかから、いくつかの事例を紹介してくれた。

自宅の中で「仕事をしない場所」を決める

 在宅勤務の場合、ついソファや寝室にPCを持ち込んでしまいがちだが、自宅のなかで「仕事をしない場所」と「仕事をする場所」を明確に区別することで、仕事と精神的な距離を置くことができるようにし、意識的に気を休めることができるようにする。また、仕事で使う部屋や机、椅子を決めておくことで、脳内でその場所を仕事に結び付けて認識し、そこから離れることで、オンからオフへとスイッチを切り替えることができる。

在宅勤務とは、1日中仕事をするという意味ではない

 在宅勤務でとくに難しいことの1つは、境界線の引き方。Googleカレンダーで業務時間を設定し、自分の就業時間をわかるようにすることで、オフィスに行なって、帰るのと同じように、時間を区切って仕事から離れる時間を作り、気を休められる時間を確保する。

自分自身(や他人)を大目に見る

 ワンルームの部屋に住んでいる人もいれば、配偶者や子ども、ペットが家にいるという人もいる。インターネット接続が遅くなったり、後ろで犬が吠えたり、猫が画面を横切ったり、子どもたちが飛び込んでくることもある。在宅勤務をするために誰もが最善を尽くしていることを忘れないこと。

 「Googleでは、社員が変化を受け入れ対応できるように支援することが重要だと考えている。しかし、新たな生活の捉え方や影響は人によって異なり、従って社員のサポートにおいても、すべての人にあてはまる方法があるわけではない。社員が新しい働き方のかたちを見出せるように、さまざまなかたちで支援を行なっている」とする。

 チームとの協働や効果的なビデオ会議の実施、バーチャル上でチームが有効に機能するための改善、心身の健康など、テレワークによって生じる課題に対処する上で、助けとなる情報を整理した社内ポータルサイトを開設しているのもその一例だ。

 Google社内では、経営者やマネージャーが、社員やチームメンバーが直面する課題を認識するだけでなく、社員に共感し、時間を割いて、自らのチームをサポートするための最善の方法を考え、実践していくことも課している。

 では、今後訪れる新たな社会に対して、Googleは、どんな取り組みを行なうのか。

 Googleでは、「誰も予想しなかった今回のパンデミックにおいて、つながりと生産性を維持するために、今後は、企業でのテクノロジーの導入が加速し、個人でもデジタルツールの普及が急速に進んでいくことになると見ている。このような動向を踏まえると、デジタルソリューションへの投資が、規模の大小を問わず、将来の変化に備える一助となるだろう」としながら、「Googleでは、在宅勤務で活用できるツールやノウハウを紹介している。ぜひ活用してほしい」と呼びかける。

 これまで紹介したように、Googleは、社員同士によるサポートグループや、オープンな文化の維持および共有を目指したプログラム、固定観念を意識的に見直すためのトレーニングなどを通じ、つながりが生まれやすい組織風土を醸成しており、こうした事例も広く紹介していく考えだ。

 「社員がお互いにつながり続け、生産性を維持するためには、堅牢なセキュリティに守られたコラボレーションを促進するデジタルソリューションと、お互いを思いやって働ける環境やチームの両輪が重要である。世界中のすべての人がはじめて直面したこのチャレンジを前に、企業や業界の垣根を超え、お互いに知恵を絞り、ベストプラクティスを共有し合うことで、よりよい、新しい働き方を共に作り上げることができるよう、多くの方々と広く協力していきたい」とする。

 こうしたGoogleの幅広い取り組みは、多くの企業にとって参考になる事例だ。