『ロードス島戦記』の歴史~黎明編。伝説はコンプティークでのTRPGリプレイ から始まった

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 『ロードス島戦記』は、日本発の壮大なファンタジー作品です。呪われた島“ロードス”を舞台に、若き戦士・パーンや、“帰らずの森”の美しき女エルフ・ディードリットをはじめとする若者たちが冒険を繰り広げ、やがてロードス島の歴史をも動かしていく活躍を描きます。

 1988年に作家・ゲームデザイナーの水野良氏による小説版(角川文庫→角川スニーカー文庫)が刊行されて以降、アニメ版やゲーム版の発売などメディアミックス展開も行われ、日本におけるファンタジー作品の草分け的な存在として人気を集めました。

 このように30年を超える歴史のあるシリーズですが、2019年8月には人気キャラ・ディードリットも登場する新シリーズ『ロードス島戦記 誓約の宝冠』の刊行がスタートしたり、2020年2月にはPC向け2Dアクションゲーム『ロードス島戦記―ディードリット・イン・ワンダーラビリンス―』のアーリーアクセス版が配信されるなど(フルリリース版は2020年配信予定)、現在も活発に作品展開が続けられています。

 連載第1回は、『ロードス島戦記』の始まりと、当時の人気を振り返ります。

大ヒット小説シリーズの“原作”となるリプレイ版『ロードス島戦記』

 小説版のミリオンヒットで日本のファンタジー界にその名を轟かせた『ロードス島戦記』ですが、じつはその前身となるバージョンが存在します。角川書店の雑誌『コンプティーク』で1986年9月号より連載が始まったテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の誌上ライブ(リプレイ)『ロードス島戦記』(作・安田均とグループSNE/絵・出渕裕)シリーズです。一般的にはまだ知名度が低かった『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などのテーブルトークRPGの魅力を紹介する連載企画で、司会・進行役のGM(ゲームマスター)を中心に集まったプレイヤーたちが、会話形式でゲームを進め、キャラクターになりきって冒険を楽しむ姿を紹介していくという内容でした。

 連載が始まった1980年代後半は、ファミコン全盛期。初代『ドラゴンクエスト』(1986年5月発売)が発売されたばかりで、本作や、やはり当時大流行していたゲームブック(数字が割り振られたバラバラの文章を選択や分岐に沿って読み進めていく書籍)で“剣と魔法”のファンタジーRPGの魅力を知った日本のゲームファンたちが、次なるコンテンツを貪欲に求め始めているタイミングでした。

 そこに登場した『ロードス島戦記』の連載は、世界観やキャラクターの魅力はもちろんのこと、普通の小説では味わえないライブ感や、出渕裕氏のイラストなども相まって、爆発的な人気を獲得。30~40代以上の古参ゲーマーで、この連載を通じてテーブルトークRPGなどのアナログゲームの魅力を知り、現在も愛好されている方は多いと思います。

 この人気を受けて、『ロードス島戦記』はリプレイ元の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』から独立(?)し、オリジナルルールのテーブルトークRPG『ロードス島戦記コンパニオン』や『ロードス島RPG』が登場。さらに世界観の一部を共有する『ソード・ワールドRPG』が誕生するなど、日本のテーブルトークRPGの発展に大きく貢献しました。

  • ▲書籍化されたリプレイ版全3巻のうち、Ⅰ巻とⅡ巻は版権的な理由で雑誌連載されたものではなく、オリジナルルールで同じシナリオを再プレイしたものが収録されている。現在も電子書籍版を購入可能だ。

パーンもディードもプレイヤーキャラだった!?

 誌上ライブ『ロードス島戦記』は好評を受けて第3部まで連載が続き、魅力的な“ロードス島”の世界を展開していきました。小説版『ロードス島戦記』の主要な登場人物たちも、このリプレイのキャラクターが基になっています。

 シリーズ前半の主人公といえる自由騎士パーンや相棒のディードリットなどは、リプレイ第1部でプレイヤーが演じたキャラクターが基になっています。第2部からはオルソンやシーリスといった仲間キャラクターが(パーンの宿敵・アシュラムも第2部に登場したNPCから)、第3部からはシリーズ後半の主人公・スパークやニースが設定やキャラクター付けなどを追加され、登場しています。

 登場キャラ1人1人が、各プレイヤーが自分の分身として生み出したプレイヤーキャラクターが基になっているというわけです。個性的なキャラクターが多数登場する『ロードス島戦記』ですが、その魅力の一端は、このリプレイ版の存在にあるのかもしれませんね。

  • ▲敵も味方も魅力的なキャラクターたちばかり! リプレイ版での設定やエピソードが小説版でもうまく昇華されており、冒険やドラマを盛り上げていく。

日本のファンタジーRPG界に革新をもたらした鮮烈なビジュアル

 リプレイ版~小説版本編までのイラスト等のビジュアルは、キャラクター/メカニックデザイナー、イラストレーター、アニメ監督の出渕裕氏が担当されています。雑誌連載のリプレイ版には毎回多数の魅力的なイラストが提供され、ファンを魅了しました。モノクロの誌面用に描かれたキャラクターやモンスター、アイテムなどが雰囲気満点で、毎回楽しみに誌面をめくっては、想像を膨らませたファンも多かったと思います。

 “エルフ”といえば、多くの方が華奢で美形で弓や魔法に長け、耳が細長く尖っているというビジュアルを想像すると思いますが、このイメージは『ロードス島戦記』で出渕氏が描いたエルフ=ディードリットのイラストによる影響が大きいと言われています。それまでの海外作品の挿絵などに登場するエルフは“長身かつつり目で、悪魔のようなつり上がった耳”といったビジュアルが多く、どちらかというとモンスターっぽいイメージが主流でした。ところがディードリットの登場で日本人のエルフ観はすっかり彼女で定着してしまい、以降の作品に登場するエルフは、ディードリット型一色になってしまいました。このことからも、当時の『ロードス島戦記』人気(=ディードリット人気?)のすさまじさがわかると思います。

 なお、小説版の『ロードス島伝説』シリーズでは山田章博氏が、『新ロードス島戦記』シリーズでは美樹本晴彦氏がイラストを担当されており(いずれも日本イラスト界の重鎮!)、それぞれ魅力的な『ロードス島戦記』ワールドが描かれています。さらに最新シリーズ『ロードス島戦記 誓約の宝冠』のビジュアルは、人気イラストレーターの左氏が担当! いずれ劣らぬ実力派イラストレーターによる競演を楽しめるのも、『ロードス島戦記』ならではでしょう。

  • ▲作中屈指の人気キャラクターであるハイエルフのディードリット。優秀な精霊使いで、剣の技量も備えている。気まぐれにパーンの冒険に参加し、そのまま彼と長く行動を共にすることに。

独自の世界観を忠実に再現したアニメ版も! 動くパーンたちの戦いは必見!!

 「『ロードス島』はアニメから入った!」という方も多いかも知れません。1990年~1991年にOVAとして全13話が作成され、こちらも大ヒットを記録しました。発売当時、まだ小説版が完結していなかったため、細かいストーリー展開や結末が小説版とは異なるのが特徴です。また、黒衣の騎士アシュラムに従うダークエルフのピロテースはOVA版のオリジナルキャラクターでしたが、非常に人気があったためか、本家の小説版にも登場するという快挙(?)を成し遂げています。

 さらに1998年には、小説版の完結に合わせてストーリーを再構築したTVアニメ『ロードス島戦記-英雄騎士伝-』が、全27話で放送されました。序盤の第8話まではパーンが、それ以降はパーンに憧れて立派な騎士になることを目指すスパークを主人公とした物語が展開します。

 ともに人気を集めたアニメ版ですが、未視聴の方は、オープニングまたはエンディングだけでも確認してみてください。どれも楽曲、映像ともにクオリティが高く、『ロードス島戦記』ならではの幻想的な“空気感”のようなものを感じられると思います。これを見るだけで、心を冒険に旅立たせることができるでしょう。

今からでも遅くない! 魅惑の“ロードス島”へ旅立とう!!

 ほかにも各シリーズのコミカライズ版や、コンピュータゲーム版など、幅広く展開されてきた『ロードス島戦記』シリーズ。30年以上の歴史の中で、さまざまな人や作品に影響を与え、現在の日本のファンタジーRPGシーンやライトノベル業界の礎となった、名作中の名作といっても過言ではないでしょう。

 ほぼすべてのメディアで楽しむことができる『ロードス島戦記』ですが、今から新しく“入門”されたい方や、久々に“帰省”したいという方には、手軽に楽しめる小説版がオススメでしょう。次の第2回では、小説版『ロードス島戦記』シリーズについて、詳しく振り返っていく予定です。

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イラスト:出渕裕

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