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人気が過熱するClubhouseの「おしゃべり」は、日本のネットの景色を変えるかも

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー

この1週間、日本のネットで最も注目された話題の1つは間違いなく、音声SNSのClubhouseでしょう。

日本の電話番号に対応したのは、つい先週末のことのようですが、先週末から今週にかけて一気に話題が沸騰。

筆者自身が、長い日は10時間以上Clubhouseにいりびたってしまうほど、ほぼ今週はClubhouseに住んでいる状態でしたので、まだ使ったことがない方とはかなり温度差があると思いますが。

参考:音声版ツイッターといわれる「Clubhouse」の、何がそこまで革新的なのか

個人的には、このサービスの登場に、日本のインターネットの位置づけや構造が変わってしまう可能性すら感じています。

たった一週間でClubhouseは大きな話題に

まずは、この一週間の怒濤の展開を振り返ってみましょう。

■1月22日(金) Clubhouseの時価総額が1000億円超えと報道

■1月23日 週末にかけて起業家や投資家を中心に徐々に話題に

■1月25日(月) 資金調達が日本でも記事化され、利用者が更に拡がるきっかけに

■1月26日(火) ヤフートピックスにもClubhouseの記事が掲載

■1月27日(水) 田村淳さん、小嶋陽菜さんなど芸能人もClubhouseで配信実施

■1月28日(木) App Storeランキングで総合1位に

■1月29日(金) NEWS23で、Clubhouseがとりあげられる

「クラブハウス」「クラブハウス招待」などの関連キーワードが、連日のようにツイッターのトレンド入りしており、メルカリでクラブハウスの招待券が有料で販売されるなど、明らかに過熱しすぎの印象もあるほどです。

Clubhouseは音声版ツイッターと紹介されることもありますが、ツイッターが日本のネット業界で話題になってから、芸能人が使ったりテレビで取り上げられるようになるまでは1年以上はかかっていたことを考えると、Clubhouseはツイッターの1年分の出来事をこの一週間で一気に駆け抜けた印象すらあります。

Googleの検索数のグラフを見ても、この一週間のClubhouseの検索数は、すでにTikTokの検索数を追い抜くほどの勢い。

(出典:Googleトレンド 赤「TikTokの検索数」青「Clubhouseの検索数」)
(出典:Googleトレンド 赤「TikTokの検索数」青「Clubhouseの検索数」)

アプリのダウンロードランキングでも、ここ数日総合1位に飛び込んで張り付いている状態です。

(出典:App Annie 薄緑「ソーシャルネットワークランキング順位」緑「総合ランキング順位」)
(出典:App Annie 薄緑「ソーシャルネットワークランキング順位」緑「総合ランキング順位」)

世代や業界を問わずに同時多発的に拡散

従来、Clubhouseのような新しいサービスは、ネットのヘビーユーザーの間で話題になってから、徐々にその周辺に拡がっていったり、TikTokのように若い世代から人気が拡がり、徐々に上の世代にもその魅力が理解されていくというケースが多かったように思います。

しかし、Clubhouseは、ネットのヘビーユーザーも、芸能人も、音声メディアはもちろん、紙メディアの人も映像メディアの人も、若い世代も、昭和の世代も、一週間の間に同時に普及が拡がった印象があるのが、非常に興味深いところです。

今あらためて振り返ってみると、少なくとも日本の従来のインターネットサービスにおいては、ツイッターやブログのようなテキスト系サービスと、インスタやYouTubeのようなビジュアル系サービスの間で、ユーザー層に明らかに大きな断絶があったように感じています。

もちろん、両方使いこなしている人は多数いるのですが、基本的にはツイッターやブログのようなテキストサービスでは、「書く」という行為が得意な人が多くなります。

その結果、文章を書くのが得意な人が目立つことになります。

一方で、インスタやYouTubeのようなビジュアル系サービスでは、写真や映像で「魅せる」という行為が得意な人が多くなります。

その結果、芸能人やYouTuberのようなスキルを持っている人が目立つわけです。

実はどちらの行為も人間の普段の生活においては、少し特殊な行為。

そのため、それぞれのコミュニティは同じインターネット上にありながらも、少し発信者も視聴者もずれていて、両者が同時に交わるということは少なかったように思います。

誰もができる「おしゃべり」の力

しかし、Clubhouseが対象にしているのは「話す」という行為。

もちろん、従来の音声サービスの「話す」というと、ラジオのパーソナリティや声優さんのような職業を思い浮かべる方も少なくなかったと思いますが、Clubhouseが対象にしているのはそういう特殊な音声コンテンツではなく、誰でもが日々おこなっている「おしゃべり」です。

もちろん「おしゃべり」も得意不得意は人によってあると思いますが、長文の文章を書いたり、魅せる映像コンテンツを作ることに比べると、はるかにハードルが低く、誰でもが普通に日々行っている行為なわけです。

そのため、少なくとも現在のClubhouse上では、驚くほど様々な業種の様々な職業の人たちが、業界やコミュニティを超えて、様々なおしゃべりや出会いを楽しんでいます。

そして、その結果、たくさんのあたらしい出会いやつながりが、Clubhouse上で生まれはじめているのです。

例えば私の参加したルームで起きた現象の中でも印象的だったのが、タレントのこじるりこと小島瑠璃子さんがマーケティングのテーマの部屋に聴衆として参加し、友人の古市さんを通じてスピーカーとして参加することになり、マーケティングやメディアの議論を展開されていたこと。

こじるりさんは、単にClubhouse上でおしゃべりを楽しむだけでなく、業界を超えて様々な人をつなげることにも挑戦されているそうで。

早速、「こじるりが松尾豊教授にAIの可能性についていろいろ聞いてみる夜」というイベントも企画されています。

豪華なゲストもそろっていますが、これもClubhouse上でのおしゃべりを通じてゲストが増える結果になったようです。

「おしゃべり」を通じた新しい出会い

現在のClubhouseのブームがいつまでつづくのかは分かりません。

過去のウェブサービス同様に、あっという間に飽きられる可能性もありますし、競合が真似をしてくればユーザーが分散する可能性も高いでしょう。

ただ少なくとも、緊急事態宣言下の日本において難しくなっていた、リアルの飲み会やイベントなどにおいて実現されていた「おしゃべりを通じた偶然の出会い」の代わりを、Clubhouseが演出してくれていることは間違いありません。

少なくとも私個人は、Clubhouseの登場によって、去年1年間我慢せざるをえなかった、おしゃべりや雑談のエネルギーをたくさんいただくことができていますし。

あらためて人とのおしゃべりこそが、最大のエンタメだなと感じています。

また、特に印象的なのは声の「おしゃべり」であれば、匿名掲示板のように激しい言葉をいきなり投げつけてくる人も少ないという点です。

もちろん、今後ユーザーが増えることによってそこは変わる可能性は少なくありませんが、すくなくともネットに対してネガティブなイメージが強かった方にとって、Clubhouse的なサービスが新しいインターネットのイメージを作ってくれる可能性を感じます。

この場で生まれた、たくさんの出会いが、これから日本のインターネットの景色をより良い方に変えてくれるのではないかと感じている人は、きっと私だけではないはずです。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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