「スーパー戦隊」の売り上げが大きく落ち込んでいます。
でも、その大きな原因は「放送時間の変更」ではないよ、というお話です。
2021年5月11日バンダイナムコHDの2021年決算数値が出ました(IR・投資家情報|株式会社バンダイナムコホールディングス)
2020年は新型コロナの影響でバンナムの主要作品はほぼ数字を落としていますが、ここ数年特に顕著なのは「スーパー戦隊」の売り上げの低下です。
下記グラフはバンダイナムコのニチアサ3作品(+アイカツ!)の「グループ全体売り上げ」の推移グラフです。
(※グループ全体売り上げは、おもちゃや関連商品の他、映像作品、音楽作品、アプリ、家庭用ゲーム、イベントや海外展開なども含みます)
スーパー戦隊シリーズ(緑色)の売り上げが特が2018年3月期以降、急激に落ち込んでいる事が判ります。
スーパー戦隊は2018年までは、150~200億円のグループ全体売り上げがありましたが、2018年以降急激に落ち込み、194億→102億→68億→52億と年を追うごとに落ち込んでいきます。
(ちなみに2016年3月期にスーパー戦隊、仮面ライダー共に大きく落ち込みを見せたのは空前の妖怪ウォッチのブームによるものです)
2015年まではプリキュアの2倍以上あったグループ全体売り上げは、今やプリキュアよりも下回る所まで落ち込んでいます。
2017年の「210億円」から見れば2021年の「52億」は、わずか4年で約75%減、という信じられない様な数字です。
〇時間変更以降、落ち込んでいる?
スーパー戦隊が落ち込み始めた時期と重なるのが、ニチアサの番組改編です。
2018年10月、番組改編によりスーパー戦隊は7:30放送開始だったのが9:30放送開始へと変更になりました。
どうも、そのタイミング以降、売り上げが急激に落ち込んでいる様に見えますよね。
「時間変更により、子供の接触機会が減った。」」
「9:30は子供たちが外に出かけ始めるので番組を観なくなってまった」
「裏番組のワンピースと食い合っている」
その様な事がまことしやかに言われる様になっています。
この見解は一部では当たっているかもですが、大きな見落としがあります。
〇国内トイホビー売り上げに注目
バンナムの決算数値は2種類あります。「グループ全体」と「国内トイホビー」です。
国内トイホビー:玩具、カプセルトイ、カード、菓子・食品、アパレル、生活用品、プラモデル、景品、文具などの企画・開発・製造・販売
グループ全体:国内トイホビー+その他グループ(映像、音楽、イベント、アプリ、ゲーム、アミューズメント施設など)
詳細はバンナムHPにあります。
バンダイナムコグループ組織体制|事業紹介|株式会社バンダイナムコホールディングス
前述の4作品の(グループ全体ではなく)「国内トイホビー売り上げ」を見てみます。
戦隊シリーズ(緑色)は、確かに「国内トイホビー売り上げ」も2018年以降落ち込んではいますが、「グループ全体」ほど大きな落ち込みはありません。
「国内トイホビー」と「その他」の構成比の推移を見てみます。
「スーパー戦隊」の内訳はこんな感じです。
スーパー戦隊は2018年以降、国内トイホビー以外が極端に減っている事がわかります。
つまり、スーパー戦隊は「国内トイホビー売り上げ(=おもちゃや関連商品)」ではなく「それ以外の要因」により大きな落ち込みがある事がわかります。
「国内トイホビー以外」とは何なのでしょうか?
家庭用ゲームや映像商品などは2018年前後で発売数などに大きな差はありませんし、イベントなどにも大幅な縮小など顕著な動きがあったわけではない様です。
〇ハズブロのパワーレンジャー買収
2018年5月にスーパー戦隊の海外展開の「パワーレンジャー」がアメリカ大手の玩具メーカー、ハズブロに買収されています。
「パワーレンジャー」ブランド、米玩具大手ハズブロが570億円で買収 | アニメーションビジネス・ジャーナル
「パワーレンジャー」の玩具のマスターライセンスはこれまでは日本のバンダイナムコグループが保有していたが、2019年春からはライバルのハズブロから商品が発売される。
バンダイは長年持っていた「パワーレンジャー」の玩具における主導権を失う。
スーパー戦隊の「グループ全体売り上げ」が大幅な減少になったのは、この、「海外のパワーレンジャーのおもちゃのマスターライセンス譲渡」によるものがかなり大きいと推測されます。
そもそも「放送時間の変更」や「子供人気」だけで、75%も売り上げが減る程の影響があるならば、同じく時間変更となった仮面ライダーも大きな影響を受けるはずです。
事実パワーレンジャーがハズブロに買収されて以降、バンナムの決算短信からは「PowerRangers」の文字が消えています。
(2017年3月期決算)
(2021年3月期決算)
おおざっぱに言えば、2018年までは「日本のスーパー戦隊」+「海外のパワーレンジャー」の合算だったのが、2019年より「日本のスーパー戦隊」のみになった、という事ですね。
〇ちょっと横道にそれる
話はそれますが、他コンテンツの「国内トイホビー」と「グループ全体」の比率を見てみると、なかなかに面白いです。
〇仮面ライダー
仮面ライダーは変身ベルト等のおもちゃがメインなので、構成比は「国内トイホビー」が大半ですね(それ以外は家庭用ゲームや、イベントなどでしょうか。ガンバライジングのカードは国内トイホビーに入ります)
〇プリキュア
プリキュアも「玩具と関連商品」の国内トイホビーがほとんどですね。バンダイ的には「おもちゃ」メインで展開しているのがわかります。(昔は3DSでゲームが出てたりもしたのですが)
プリキュアのDVD、BDはポニーキャニオン,CDはマーベラス等ですので、バンナムの売り上げには関係ありません
〇アイカツ!
「アイカツ!」はバンダイ傘下の(株)サンライズが映像制作なので、国内トイホビー(メインはカード売り上げ)とそれ以外(映像や音楽など)に売り上げが二分されています。サンライズがアニメを製作して、BD,DVDはハピネットが売り、ランティスがCDを手掛けます。まさにバンダイグループの作品ですね
〇ドラゴンボール
逆に「ドラゴンボール」はほとんどが「国内トイホビー以外」の売り上げですね。決算資料を見ると家庭用ゲームやワールドワイドに展開しているゲームアプリが絶好調の様です。
この様に「国内トイホビー」と「それ以外の売り上げ」の構成額をみるといろいろと面白いですね。
とはいえ戦隊は国内トイホビーも落ちているのも事実
スーパー戦隊のグループ全体売り上げが大きく減っているのは「ハズブロによるパワーレンジャーの買収」が大きなウエイトを占めているとは思われます。
とはいえ、スーパー戦隊の「国内トイホビー」も落ちているのも事実なのですよね。一時期よりは確実におもちゃが売れていない様です。
確かに「世帯視聴率」を見ても、ニチアサの時間変更以降の作品はやや世帯視聴率を落としてはいます。
しかし視聴率で売り上げが影響されるのであれば、同じ程度視聴率が落ちている仮面ライダーの売り上げが右肩上がりの絶好調なのの説明ができません。
この「スーパー戦隊」の売り上げ減少は、当然バンダイサイドも認識しています。
玩具業界紙トイジャーナルによると、スーパー戦隊の主力玩具は「合体ロボ」で、バンダイ的には、その「合体ロボ玩具」の売り方に問題があった事に言及しています。
〇ロボの単独型MDは失敗に
例えば「魔進戦隊キラメイジャー」においては、従来の1号ロボから順番にロボを集めていく「合体型MD」から、各ロボットのプレイバリューを上げ、単独で楽しめる「単独型MD」への変更を計った、と玩具業界紙トイジャーナルで言及しています。
今回のロボ遊びについては、従来の1号ロボから順に商品を購入していくことが前提であった合体型MDから、「キラメイジャーロボシリーズ01魔進合体DXキラメイジンセット」などの各ロボのプレイバリューを強化して、それぞれ単品で楽しめる単独型MDに変更
月刊トイジャーナル(東京玩具人形協同組合)2020年2月号(P8)
しかし、その「単独型MD」も振るわなかった様です。翌年同月のトイジャーナルにおいて反省しています。
小林氏は「近年はシリーズの低迷が続き、前作「魔進戦隊キラメイジャー」もロボット単独型MDなど新チャレンジを行ったものの振るわず、トレンドを押し上げる事ができなかった」と語り、こうした反省点を踏まえ、今作ではスーパー戦隊の既成概念に固執しない変化を打ち出し、商品MDをしっかり連動させてシリーズトレンドの再浮上を目指す。
アジアトイ戦略部マーケティングチーム NC担当小林周矢氏
月刊トイジャーナル(東京玩具人形協同組合)2021年2月号(P9)
機界戦隊ゼンカイジャーでは「これまでのスーパー戦隊の既成概念に固執しない変化を打ち出す」としています。確かに人間1人+ロボットの点や、これまでのストーリー展開などを見ても従来とはかなり異なる作風ではあるかと思います。
これが成功するのかどうか、楽しみですよね
〇外的要因?
スーパー戦隊をはじめに子供向けコンテンツは、この先の「少子化」も大きな問題になってくると思います。ざっと調べた所、だいたい10年前より15%程度は子供の人数は減っている様です。(後ほどちゃんと調べます)
また、コンテンツへの接触機会もテレビ中心からWEBに移ることにより、
「おもちゃで遊ぶのではなく、おもちゃで遊ぶYouTubeを見て満足する」
みたいな事も起きている様ですね
バンダイサイドもそのあたりは懸念している様で、玩具業界紙によるとこの先はテレビ放送との連動だけでは玩具が売れなくなっていくので、ウェブ媒体などで様々な施策を行っていく、と業界紙で言及しています。
特に昨年は新型コロナ禍や「鬼滅の刃ブーム」が小学生にも浸透し、まだまだスーパー戦隊も苦しい日々が続くのかもしれません。
ただ、この10年間のGoogleトレンドの傾向をみても「スーパー戦隊」は決して人気が落ちているわけではない事もわかります。(これは大人の人気なのかもですが)
ルパパトは特撮では初のギャラクシー賞を取るなど、大人の評価も高いですよね。
ルパパト:ギャラクシー賞月間賞受賞 「特撮の枠を超えた見応えのある人間ドラマ」と高評価 - MANTANWEB(まんたんウェブ)
2021年「機界戦隊ゼンカイジャー」はその攻めまくった内容が超面白いのでオススメです。僕もプリキュアを見終わった後、朝ごはんを食べながら見ています。
(おわり)