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数日かかった点字への翻訳を数秒で、ベンチャーが点訳エンジン開発 音声読み上げでは賄えないニーズとは

» 2021年10月21日 08時00分 公開
[松浦立樹ITmedia]

 東京工業高等専門学校の学生が立ち上げたベンチャー企業、TAKAO AI(東京都八王子市)は10月20日、画像データから文字を認識し、自動で点字に翻訳する点訳エンジン「:::doc」(てんどっく)を開発したと発表した。試用版をデモサイト上で無料公開している。

:::docのデモサイト

 従来、印刷物などの文字情報の点訳は、点字技能を持つ目の見える人が数日かけて行っていた。しかし技能者の数は少なく、視覚障害者がリアルタイムに印刷物の情報を取得するのは困難だった。

 同社の自動点訳技術は、書類を撮影した画像をアップロードするだけで、数秒で文字を点字に翻訳できる。他人を介することなく、視覚障害者が印刷物をタイムリーに確認できるようになるという。

:::docの使用例

 視覚障害者に点訳した情報を伝えるには、凹凸を持つ表面に点字を打ち込む必要がある。紙に点字を印刷する「点字プリンタ」と非常に小さなソレノイドを用いて作られた「点字ディスプレイ」というデバイスで読めるものの、これらのデバイスは高価なものが多く、普及率は視覚障害者の中でも低いという。

 今回のデモサイトは、同社の点訳エンジンの性能を体感してもらい、点訳とは何かを知ってもらうため、健常者向けに開発したもの。同社では、デバイスの問題についても解決すべく、現在計画を進めているとしている。

音声読み上げ機能と点字の違いとは?

 昨今では音声読み上げ技術の研究も進み、実用化しているものも多い。一見点字は不要にも思えるが、同社の板橋竜太代表によると「視覚障害者からは点字を求める声が多い」という。

 「音声は情報を全て得るには時間がかかるし、物理的な媒体で管理するのが難しい問題もある。さらに、紙に何が書いてあるのか分からない状態で音声読み上げ機能を使うと、個人情報を読み上げられてしまい、情報漏えいも起こり得る」(板橋氏)と点訳の必要性を話す。

 「健常者が、本や書類を全てオーディオブックに置き換えることは難しいように目が見えない方にとっても『読む』という行為は非常に重要なもの。だからこそ、読むことによって得られる情報量は最大化していくべきだと考えている」との考えを示している。

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