戦う会長・佐藤康光九段(51)豪腕うならせ王座戦挑決進出!
6月26日。東京・将棋会館において第69期王座戦本戦準決勝▲佐藤康光九段(51)-△飯島栄治八段(41)戦がおこなわれました。
10時に始まった対局は21時16分に終局。結果は115手で佐藤九段の勝ちとなりました。
佐藤九段はこれで挑戦者決定戦に進出。木村一基九段(48歳)-石井健太郎六段(29歳)戦の勝者と対戦します。
「4強」不在の本戦ベスト4
現在の将棋界は渡辺明名人(棋王・王将)、豊島将之竜王(叡王)、藤井聡太王位・棋聖、そして永瀬拓矢王座が上位を占める「4強」の時代と言われています。ほとんどの棋戦では、4者のうちの誰かが常に勝ち上がる状況が続いています。
そうした中で、今期王座戦は波乱の展開といえるかもしれません。ディフェンディングチャンピオンの永瀬王座をのぞく3人のうち、豊島竜王と藤井二冠は1回戦、渡辺名人は2回戦で姿を消しました。準決勝まで勝ち上がった4人のうち、誰が永瀬王座に挑戦しても、五番勝負は新鮮な組み合わせと言えそうです。
佐藤康光九段は過去にタイトル13期を誇る大棋士です。しかし王座は3回挑戦しながら、いずれも羽生善治王座(当時)に敗退。王座獲得の経験はありません。
佐藤九段は今期、久々のタイトル戦登場に近づいています。よく知られている通り、佐藤九段は現在、日本将棋連盟会長。重責を担い、日々激務をこなしています。
その一方で、順位戦ではA級の地位を維持。対局では変わらず豪腕を発揮し、ABEMAトーナメントでの活躍も記憶に新しいところです。
飯島八段は中堅の実力者。2021年2月には八段昇段を果たしました。2020年度は好調で、32勝13敗(勝率0.711)という好成績を残しています。
「すごくないですか?」
というのは飯島八段の昔からの口癖でした。それが最近では将棋界における流行語となっています。
飯島八段はタイトル挑戦の経験はありません。今期は大きなチャンスを迎えていました。
康光流炸裂
佐藤九段と飯島八段は過去に3回対戦し、佐藤九段が3連勝しています。
本局、先手は佐藤九段。まずは端1筋を突き越して、三段金から向かい飛車にしました(1図)。
昔は阪田三吉、いまは佐藤康光といった感じの、わが道をいく独創的な序盤作戦です。
対して飯島八段は堅実な棋風。金を飛車側に上がり、飛車を一段目に構えました。堅さよりもバランス重視の現代将棋らしい布陣です。
積極的に動いていく佐藤九段に対し、飯島八段は棋風通り慎重に対応します。そして相手が突き越している端から反撃。これが的確な方針だったようで、進んでみると飯島八段がリードを奪いました。
2図は飯島八段が△2七金と打った局面です。
△2七金の王手は実に気持ちがいい。(A)▲2七同玉ならば△1六角▲2八玉△4九角成と好調な攻めが続きます。
本譜、佐藤九段は2分考え、さっと(B)▲1九玉と引きました。これがいかにも康光流という受け方。「玉は下段に落とせ」の格言の通り、上から押される格好になっては、佐藤玉は危ないどころの騒ぎではありません。それを承知の上で、こちらの方が逆転のアヤがあるという判断だったのでしょう。
飯島八段の側から見れば、あともう一押しで勝てそう。しかしその一押しが難しかったようです。▲1九玉のあと、飯島八段は(B-1)△8九角▲8八飛△5六角成と攻めていきました。しかしその順は最善ではなかったようで、本譜は逆転しました。代わりに(B-2)△6六歩ならば、飯島八段快勝につながっていたのかもしれません。
危ういところをしのいだ佐藤九段。次第に佐藤玉の外壁には金銀が打ちつけられ、元から穴熊だったように堅くなっていきます。
最後は佐藤九段が一手勝ちを読み切り、寄せ合いに出ます。最後は115手目、▲6二飛の王手を見て、飯島八段は投了しました。
投了図以下、飯島玉は即詰みとなります。
佐藤九段はこれで挑戦者決定戦に進出しました。あと1勝で永瀬王座への挑戦権を獲得します。
佐藤九段は過去に永瀬王座と7回対戦し、4勝3敗と勝ち越しています。
現役会長でタイトルホルダーとなれば、昭和の巨人・大山康晴15世名人以来の快挙となります。