藤井聡太王位が豊島将之竜王に苦戦を強いられる4つの理由― 担当記者の分析

スポーツ報知
王位戦第1局で藤井聡太王位(右)に勝ち、感想戦で対局を振り返る豊島将之竜王(代表撮影)

 将棋の第62期王位戦七番勝負第1局が30日、名古屋市の名古屋能楽堂で前日から指し継がれ、防衛を目指す先手の藤井聡太王位(18)=棋聖=は104手で挑戦者の豊島将之竜王(31)=叡王=に完敗を喫し、黒星スタートとなった。藤井の対豊島戦は1勝7敗に。通算勝率・838の天才は、なぜ豊島に対してのみ苦戦を強いられているのか。担当記者が分析した。

 どんな敗北でも悔しさが伝わってくる顔になる天才が平然としていた。局後の藤井は「早い時間の終局になってしまったので、第2局以降は熱戦にできるよう頑張ります」と淡々と言った。もはや屈辱や後悔もない完敗だったのかもしれない。

 2日目。封じ手開封直後から形勢の針は振れた。藤井は両端の攻防で後れを取り、角を奪われる展開に。豊島の着実な攻めで自陣を攻略され、一度の見せ場もなく投了に追い込まれた。残した持ち時間は1時間41分。43敗目(223勝)で最長だった。「正確に攻められてしまい、かなり苦しくしてしまった印象でした」

 4人で8タイトルを分け合う時代。藤井は渡辺明名人に7勝1敗、永瀬拓矢王座に4勝1敗とリードするが、豊島には1勝7敗と苦戦を強いられている。逆に豊島は渡辺に14勝21敗、永瀬に7勝8敗と負け越す。なぜ本カードは星が偏るのか。複数棋士の証言を基に記者が分析すると「4つの理由」の推論が浮かぶ。

 《1》AI

 現代の常識となったAI研究において、豊島は2013年から取り組む先駆的存在。藤井もAI研究を主とするため、先攻された時に対応の難易度が上がる側面がある。

 《2》原点

 藤井は奨励会員だった小学生時代、豊島に練習将棋で完敗。デビュー後の29連勝中にも非公式戦で敗れ、深層心理に苦手意識が潜んだ可能性がある。

 《3》重圧

 前日会見で「藤井さんは特別な存在。自分は一般的な棋士」と語るように、豊島は藤井に最大の敬意を払う。敗れる重圧を過度に抱く位置付けではなく、常に果敢な指し回しを貫いている印象がある。

 《4》先入観

 過去対戦の熱戦を全て豊島が制して星が偏ったことで、藤井に強い先入観が生まれたとも考えられる。

 藤井のタイトル戦連勝は7で止まり、初めてビハインドからシリーズに臨むことに。25日開幕の叡王戦五番勝負でも激突する豊島との“十二番勝負”は黒星発進となった。すぐ3日には渡辺との棋聖戦第3局が待つ。輝きと試練の中、長い夏を戦っている。(北野 新太)

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