独自の「QRコード」を編み出した理由を聞いてみると…ホームドア設置率100%を達成する都営地下鉄

2023年10月21日 03時00分
 鉄道駅の転落事故を防ぐために欠かせないホームドア。東京都営地下鉄では、設置率が来年2月までに100%になります。実現のカギとなったのが、キャッシュレス決済や電子チケット、在庫管理など、日常のさまざまなシーンで目にする「QRコード」。意外にも思える技術を鉄道の現場に持ち込んだのは、現場の職員のアイデアでした。ホームドア整備に携わった都交通局車両電気部の岡本誠司さん(63)に話を聞きました。(聞き手・三宅千智) 

東京都交通局の岡本誠司さん

―都営地下鉄のホームドア整備はいつ頃から進んだのですか?
 もともとホームドアは、都営三田線を2000年にワンマン運転に切り替える際、電車が走る空間に物理的に人が入らないようにするために導入したんです。結果的に転落事故を防ぐという効果もあり、各路線で設置を進めることになりました。
―複数の鉄道事業者が乗り入れる浅草線には課題もあったそうですね
 浅草線は、都営地下鉄も含め5つの事業者による相互直通運転を行っています。2ドアや3ドア、6両編成や8両編成の車両が乗り入れることから、ホームドアの開閉する場所を車両に合わせて変える必要があります。ただ、無線装置の設置には1編成あたり数千万円と高額な車両改修費が必要で、費用は各社負担になる。乗り入れする他社に持ちかけても、話に乗ってもらえませんでした。「うちはホームドア付けないから」という会社もいました。車両の改修をしないとなると、乗務員がホームドアを開け閉めし、確認作業も必要になる。人間ですから開け忘れ、閉め忘れも出てくるでしょう。確認に時間をかければ、1駅への停車が長くなり、輸送力が落ちてしまう。じゃあどうする、というところで止まっていました。

上部に吊り下げられたカメラで列車のドアのQRコードを読み取り、制御されているホームドア=都営浅草線中延駅で

―QRコードの活用につながったきっかけは?
 さまざまな技術を探している中で、ひらめいたのが、デンソーウェーブが開発したQRコードでした。2015年、ホームドアへの応用ができないかと同社に相談したところ、「社会的にも意義がある」と応じてくれました。ホームドア整備のノウハウはわれわれ都交通局が提供し、ソフトウエア開発や誤り訂正機能の強化などはデンソーウェーブが担う、という形で開発を進めました。
―制御の仕組みは?
 編成やドアの数など車両情報を格納したQRコードのステッカーを1編成あたり4カ所に張っています。ホーム天井に取り付けた3台の読み取り装置でQRコードの情報を読み取るほか、QRコードの横の動きからドアの開閉を検出し、ホームドアも連動して動く仕組みです。高額な車両改修費の問題を解決し、信頼度の高いシステムを構築することができました。
―特殊なQRコードを使っているそうですね
 
 安定した読み取りを実現するため、QRコードを進化させた鉄道専用の「tQR」を採用しています。通常のQRコードは30%まで欠けたり汚れたりしても読み取れますが、tQRは50%まで欠損しても大丈夫。tQRを採用したのは地上を走る鉄道でも使えるようにするため。雨粒や太陽の光の反射による読みづらさにも対応できます。

QRコードを使ったホームドア制御システムの開発について語る岡本誠司さん

―京急電鉄、小田急電鉄など、この技術を採用してホームドアを導入する民間事業者も増えています
 
 他の会社にも役立ったのは良かった。当初のもくろみ通り、ホームドアの普及を促進するという目的の一助にはなったな、と。以前、視覚障害者団体の方が「ホームドアはわれわれの命なんです」とおっしゃっていました。転落事故がなくなることにつながるのは感慨深いですね。

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